2023年3月9日木曜日

「鷲田清一折々のことば」2632を詠んで

2023年1月31日付け朝日新聞朝刊、「鷲田清一折々のことば」2632では 歴史学者・磯田道史の『歴史の愉しみ方』から、ある露天商の次のことばが取り上げられてい ます。    「この商売、店が客に1本とられることもあ    れば逆もある。気にせんでいい」 ちょっと説明が長くなりますが、磯田が古本市で買った色紙が、軍部が進める大陸政策を厳し く批判した衆議院議員・斎藤隆夫が、国会除名後の思いを記したものと判り、国を誤らせぬ よう命がけで訴えた斎藤の思いに涙し、そのような品を破格の値で得たことを、その露天商に 感謝の思いで伝えたところ、露天商は以上のように答えたそうです。 私たちの商売は、お客様と損得をかけて渡り合うものではないので、私自身とは立場が違い ますが、この露天商と歴史学者のやり取りには、商売というものの真剣勝負としての一側面が あるので、ここでこのことばを紹介しました。 露天商は、真贋の分からないものを、或いは、当たりはずれは時の運と考えているかもしれま せんが、少なくとも自分の勘で仕入れ、歴史学者は目利きとして、玉石混交の品の中から懸命 に価値のあるものを選び、拾い上げる。 この真剣なやり取りの中で、歴史に埋もれていたものが発見され、日の目を見て、広く紹介 されることになる。これもある種の商売の醍醐味、なのに違いありません。

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