幕末から明治にかけて活躍した絵師、河鍋暁斎の本格的な展覧会です。
暁斎の作品は幾度か美術雑誌で見たことがありますが、何か戯画、きわ物を描く画家
というイメージを持って来ました。本展では、作品を網羅的に紹介するということで、
その画業の全容を知ることが出来たらと考えて、会場に足を運びました。
まず本展出品作は全てイギリス在住のイスラエル・ゴールドマン氏のコレクションで、
その充実した内容から江戸期の浮世絵など日本絵画が、明治以降国内よりまず
海外で評価されたという事実の流れを汲み、暁斎の作品も真っ先に外国人を魅了した
ことが、見て取れます。
これは江戸から明治に移る社会の動乱や、西洋的な価値観の一気の流入による
人々の美意識の混乱に与るところが大きいと思われますが、海外で見出され国内で
再評価されるという図式は、国際交流が活発になった時代の新たな美的価値観の
創出として、大変面白く感じられました。
本展を一通り観てまず暁斎の画業の多様さ、次から次へと作品を生み出す
バイタリティーに驚かされます。肉筆画、版画、絵日記というに止まらず、日本絵画
から水墨画、大判錦絵から版本まで、画題も神仏、妖怪、人物、動物、歴史物、春画と
多岐に渡り、その表現方法も正統な絵画から洒脱な水墨表現、戯画的なものまで、
全てが暁斎の絵画であり、特異な魅力を放っているのです。
その魅力の秘密を私なりに読み解いてみると、まず種々の技法による表現を可能に
する技量の確かさが挙げられます。暁斎は7歳で浮世絵師の歌川国芳に入門した後
狩野派の絵師にも学び、弱冠19歳で修業を終えたといいます。早熟の天才であり、
人並み以上の研鑽も積んだのでしょう。
また生きた時代の激動に決して流されることはありませんが、その変化に対して敏感
であったことも見逃せないと思います。なぜならその変化の速度を超越するエネルギー
で、絵画制作に没頭したと推察されるからです。
さらには、暁斎の滑稽な作品には前面に出て来るユーモアと諧謔が、その魅力として
挙げられます。そういう種類の作品は一見して楽しいですが、しかし正統な作品に
おいても、そのような要素は隠し味になっていると感じられるのです。
今回観た作品の中で私は個人的には、124「幽霊図」と「百鬼夜行図屏風」が印象に
残りました。 7月15日記
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