戦後の代表的な知識人の一人鶴見俊輔から、関川が思想のエッセンスを引き出す
対談集です。
私は、鶴見というと「思想の科学研究会」「ベ平連」「九条の会」の結成、参画によって、
常に大衆に寄り添う思想家というイメージを持って来ましたが、彼の考え方の
バックグラウンドや思想それ自体については、全くと言っていいほど知りませんでした。
それで入門書として比較的理解し易いかと思い、本書を手に取りました。
まず目に止まるのは、彼の特異な生い立ちと青少年期です。彼は政治家、著述家
鶴見祐輔の長男で、母方の祖父は後藤新平、姉は後に社会学者として著名な
鶴見和子というエリート家庭に生まれますが、小学校時代から素行不良が目立ち、
府立高等学校を退学処分になり、父の計らいでアメリカ留学、日米開戦により
ハーバード大学卒業後、自らの選択で帰国します。この不良性というものが、彼の
ものの考え方の根底にあるといいます。つまり、一番を目指すというエリート意識に
対する反感です。
彼によると、明治期の日本国家は近代化を急ぐあまり「樽の船」を作った。その中で
教育を行った結果、枠の中で一番を目指すエリートを多く生み、当然の帰結として
自由な精神を持つ個人はいなくなった。また第二次大戦の敗北もこのシステムを
根本から変えるには至らず、今日の閉塞状況を生んでいる。つまりその状況を打破
するためには、我々一人一人が社会を取り巻く問題を自分自身の直面する課題と
捕え、自力で解決する方法を考える姿勢こそが大切である、と言うのでしょう。
鶴見自身が係わった上述の研究会、住民運動などは、正にこの考え方をベースに
して成り立っていると感得出来ます。
では日本人が明治以降に失った大切な能力は何かというと、彼は「受け身」の知力
とも言います。これは一見主体性と矛盾するようにも感じられますが、柔道でいう
受け身の強さというか、人の影響を受けて自分を変えて行く能力で、受動的では
あるがそれゆえの強さを生み出す力です。
考えてみれば明治以降の日本は、軍事力であり、経済力であり、常に勝利や発展を
追い求めて来たのでしょう。今日の閉塞感はその帰結でもあります。鶴見の思想の
要点は、権力にこびない反骨心と打たれ強い柔軟さ、自由さにあると、改めて感じ
ました。
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