2026年5月13日水曜日
田淵安一著「西の眼東の眼」を読んで
田淵安一は、私は知りませんでしたが、戦後早い時期にフランスで評価を受け、活躍した抽象画家だ
そうです。従って、何の予備知識もなく本書を手に取ったのですが、この本の構成としてはⅠ「毎日
が今日」が、彼の生い立ちからフランス留学、画家としての地位を確立するまでの、時系列を後先に
させながら回想する随筆、Ⅱ「視る・考える」は、彼がフランス滞在の中で出会った、歴史的建造物
美術、遺物を巡る考察を記した文章をまとめたものとなっています。
彼の絵画作品も事前には知らないで読み進めたので、手探りの読書といったような覚束ない側面も
ありましたが、彼の先輩に当たるフランス滞在の日本人画家藤田嗣治や、同時代の岡本太郎について
は、作品にも親しんでいるので、彼らが共に活躍した戦後直ぐの時期のフランスの世相、美術関係者
の様子が知れて、興味深かかったです。
彼のフランスでの活動以前では、個性的な父母との関係や、早熟な成長環境も、芸術家の揺籃期の
エピソードとして気を引かれましたが、特に出国から船旅の記述に興味を持ちました。まだ連合国に
よる占領期で、出国許可を受けるのも容易ではなく、いざ船に乗り込んでも、船倉と大差ない四等
客室です。しかも、途中で船が停泊するアジアの国々は、反日感情が強く、船外に出て息抜きをする
ことも出来ません。敗戦後直ぐの日本人の寄る辺無さ、それでも敢えて海外に出ようとする田淵の
覚悟の程が感じられて、読む者も勇気づけられる気がしました。
また彼は抽象画家ですが、対象をまず感覚で捉えるのではなく、思索的な画家であることが、本書を
読んでいて推察されました。例えば、Ⅰの中の6「仕事の文化」では、フランスの町の石造りの文化
と、日本の町の木造の文化を比較して、造りの相違故のそこに暮らす人々の仕草の違い、そこから生
まれた条件、美意識の相違故の絵の具、画材の違いについて論じています。
この建材や建築様式、遺物など、物を起点とした西洋文化の成り立ちの考察、そこから敷衍した東洋
文化との差違、共通点に思いを巡らせる態度は確かに思索的で、Ⅱを読むと、彼の絵画制作の基底を
なす、思想を垣間見る思いがしました。
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