2015年7月27日月曜日

高野秀行著「恋するソマリア」を読んで

前回大きな反響を呼んだ謎の紛争地域、”アフリカの角”ソマリア潜入記第二弾
です。

すっかりソマリアに魅せられた冒険家高野秀行が、再び危険この上ない
その地域に赴きます。彼がこの地に惹きつけられるのは、ソマリ社会の
一筋縄ではいかない複雑さと多様性、彼を特別な客人として迎えてくれる
現地の人との濃厚な人間関係によると感じます。

今回高野が志すのは、現地と日本のつながりを模索することもありますが、
ソマリ人をその日常生活にまで踏み込み、より深く知るということ。彼は
そのためには「言語」「料理」「音楽」を理解することが必要と考え、まず
日本滞在の数少ないソマリ人兄妹から言語のトレーニングを受けた後、
ソマリランドでは早速、ソマリ世界で高名な詩人兼ミュージシャンに会いに
行きます。

その詩人との会話を通して、ソマリ音楽の原形が相聞の恋歌であることを知り、
次には現地の新婚家庭に初めて客人として招かれ、家人の心づくしの歓待を
受けて、一見荒っぽく、ぶっきらぼうなソマリ人の繊細で心優しい内面を知る
のです。

彼はイスラム教国では難しい一般家庭に入り込み、家庭料理を習うことにも
挑戦をして、ソマリ人が日常に食べる料理を知り、家庭内の女性の素朴さ、
純真さを知ります。

また私が感銘を受けた逸話は、父の仇に対して復讐をする代わりに、その娘を
嫁に迎えることによって周囲を納得させ、和解を成し遂げた長老の話で、ソマリの
かつての遊牧生活に基づく強固な氏族社会にあって、争いを解決するための
私憤を超えた知恵というものに、利己心に振り回され勝ちな現代社会に生きる
私たちが、考えさせられることがあると感じました。

とはいえ、南部ソマリアが戦乱の地であるというのは紛れも無い現実で、著者も
実際の戦闘に巻き込まれて、戦争の過酷を直に体験するのですが、いずれにせよ
目まぐるしく変化し、身の危険も付きまとうソマリ世界にあって、人びとが民族の
誇りを保持し、危機にあってもポジティブに、自分の問題は自身で解決しようとする
知恵とバイタリティーに、平和な世界に生きる私たちは、自己を振り返って学ぶべき
ところがあるのではないかと、感じました。

0 件のコメント:

コメントを投稿