2015年7月18日土曜日

漱石「それから」の中の、取り戻した指輪を代助に見せる三千代

2015年7月17日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「それから」106年ぶり連載
(第七十五回)に、質屋から受け出した代助のプレゼントの指輪を三千代が
彼に見せる、次の記述があります。

 「「結構な身分ですね」と冷かした。三千代は自分の荒涼な胸の中を代助に
訴える様子もなかった。黙って、次の間へ立って行った。用箪笥の環を
響かして、赤い天鵞絨で張った小さい箱を持って出て来た。代助の前へ
坐って、それを開けた。中には昔し代助の遣った指環がちゃんと這入って
いた。三千代は、ただ
 「いいでしょう、ね」と代助に謝罪するようにいって、すぐまた立って次の間へ
行った。そうして、世の中を憚るように、記念の指環をそこそこに用箪笥に
しまって元の座に戻った。」

代助はどんな心持で、目の前の光景を見たのでしょうか?三千代の窮状を
慮って彼が彼女に渡した金は、彼女の夫には内緒のまま、質入れした代助の
指輪を受け出すために使われたのです。

彼は微かな満足を覚えながらも、平岡に対して後ろめたさを感じたのでは
ないでしょうか?しかし同時に、そもそも三千代をこんなみじめな行為に
及ばせる、ふがいない夫への憤りがある。

いずれにしても代助と三千代は、指輪と金を巡って、平岡に対する秘密を
抱えることになりました。

0 件のコメント:

コメントを投稿