2015年5月10日日曜日

京都文化博物館別館「PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015」を観て

今回は、京都文化博物館別館の会場に足を運びました。

この建物は、1906年完成のどっしりとしたレンガ造りの洋風建築で、
1965年まで日本銀行京都支店として使用され、国の重要文化財に指定
されています。内部も当時のままに保存されていて、その時代を感じさせる
木製カウンターを通して迎えてくれるのが、森村泰正の8点連作「侍女たちは
夜に甦る」です。

この連作は、ベラスケスの名画「ラス・メニーナス」が飾られた閉館後の
プラド美術館を舞台にした作品で、歴史上の名画の登場人物などになり切る
セルフ・ポートレイトの写真作品で有名は森村が、謎多き名画と言われる
「ラス・メニーナス」に挑んだ作品です。

このベラスケスの絵画は周知のように、スペイン王族の肖像を描く画家本人が
描きこまれているという、入れ子状の複雑な構成になっていて、画中に
描かれている王女を始め、彼女を取り巻く人びと、あるいは鏡に映る国王夫妻、
はたまた画家本人と、絵画の主題とその関係性に今なお多様な解釈が
存在しますが、森村は8点の背景、場面設定、登場人物の配置を微妙に変えた
「ラス・メニーナス」とその周辺において、生真面目ゆえにユーモアを湛えた扮装、
面立ちで、それぞれの人物に代わる代わるなり切ることによって、観る者に
知らず知らずのうちに親近感を抱かせ、私たちの既存の権威主義的な価値観を
巧妙に転換させてくれるように思われます。

また彼が画面中の誰に扮装するかによって、個々の「森村ラス・メニーナス」の
印象は不思議な変化を遂げ、観る者は上質のミステリーを読むような胸の
ざわめきを感じさせられます。

さらに今回の展示は、歴史的な空気を湛えた場の雰囲気が作品に影響を及ぼす
部分も大きく、作者もそれを計算し尽くした展観に違いありませんが、謎多き
「ラス・メニーナス」と閉館後のプラド美術館という設定、時間を閉じ込めたような
旧日本銀行京都支店の佇まいが反響して、私にとって忘れがたい、森村作品を
観る機会となりました。

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