2015年5月27日水曜日

漱石「それから」における、代助が結婚に興味を示さない理由

2015年5月27日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「それから」106年ぶり連載
(第四十回)に、嫂の梅子に一刻も早く嫁を迎えるようにと勧められて、代助が
なかなか乗り気になれない理由に思いを巡らす、次の記述があります。

「ただ、今の彼は結婚というものに対して、他の独身者のように、あまり興味を
持てなかった事は慥である。これは、彼の性情が、一図に物に向って集注
し得ないのと、彼の頭が普通以上に鋭どくって、しかもその鋭さが、日本現代の
社会状況のために、幻像打破の方面に向って、今日まで多く費やされたのと、
それから最後には、比較的金銭に不自由がないので、ある種類の女を大分
多く知っているのとの三ヶ条に、帰着するのである。」
「 代助は今まで嫁の候補者としては、ただの一人も好いた女を頭の中に指名
していた覚がなかった。が、今こういわれた時、どういう訳か、不意に三千代と
いう名が心に浮かんだ。」

人間は往々にして、自分の本心が自分では分からないものです。代助は
自身が結婚したいと思わない理由をあれこれと考察していますが、梅子の
問いかけからふと、三千代のことが心に引っ掛かっていたことに気づかされます。

知識人の代助の結婚に対して淡白な理由付けは、なかなか論理的でたいそう
ですが、実は三千代のことが心の奥底にわだかまっていたのです。

人は何気なく、思いもよらぬ自分の心情に気づかされた時、その印象は鮮やか
なものとして、心にずっととどめられるということが、よくあるように感じられます。
代助の心の化学反応はいかに進展するのでしょうか?

0 件のコメント:

コメントを投稿