2015年5月8日金曜日

漱石「それから」に見る、代助の世間知らず

2015年5月6日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「それから」106年ぶり連載
(第二十六回)に、代助が三千代のために兄の誠吾に金を無心する場面で、
次のような会話が交わされます。

 「で、私も気の毒だから、どうにか心配して見ようって受合ったんですがね」
といった。
 「へえ。そうかい」
 「どうでしょう」
 「御前金が出来るのかい」
 「私ゃ一文も出来やしません。借りるんです」
 「誰から」
代助は始めから此所へ落すつもりだったんだから、判然した調子で、
 「貴方から借りて置こうと思うんです」といって、改めて誠吾の顔を見た。
兄はやっぱり普通の顔をしていた。そうして、平気に、
 「そりゃ、御廃しよ」と答えた。

代助は平岡夫妻への義理立てを、兄から金を借りることによって、簡単に
済ませようと考えています。自分自身が実家に養われる身ですから、当然
かもしれません。しかし世慣れた兄の方は、こんなことのために安易に金を
貸すべきではないことを、しっかりとわきまえているのです。

私の人生を振り返ってみても、若い頃にある親しい友人が起業をすることに
なって、保証人になるよう頼まれたのですが、随分考えた末、もしもの時に
負担すべき責任額が当時の私の能力を超えていたので、断った経験が
あります。

その時は大変悩み、その友人に対して申し訳なく思うと同時に、自分の
無力さを恥じましたが、結果として起業後彼が急逝して、彼への信義に
対しては弁解仕様がなくとも、当時の私の判断は間違ってはいなかったと、
感じたことを思い出します。

そのような過去の自分の経験に照らしても、この場面での代助は随分と
無責任で世間知らずと、感じました。

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