2015年5月19日火曜日

宮澤正明監督 映画「うみやまあひだ」を観て

伊勢神宮の二十年に一度の式年遷宮を通して、日本人の根底にある自然観、
宗教心を明らかにしようとする、ドキュメンタリー映画です。

二十年毎に社を全て新しく建て替えて神霊を移すという儀式は、現代人の
感覚からすると随分無駄が多いようにも感じられますが、本作品を観進めて
行くに連れ、次第にその儀式が長い年月を基準とする視点に立つと、自然の
循環という意味合いにおいて、理に適ったものであることが明らかになって
行きます。

すなわち伊勢神宮は、広大な神域の森の中に社殿が置かれているのですが、
その森は社殿の用材を恒久的に供給するために、絶えずきめ細かい手入れが
行われています。

具体的には、上質のヒノキ材を産出するために育成環境を整え、気の遠くなる
年月をかけて育て上げます。ようやくその木が伐採されると、次々代のために
新たな成育が始められるという具合です。その結果神域の森は理想的な
植生を備え、多様な生き物を育み、豊かで美しい水を下流域に供給することに
なるのです。

さて、その豊かな森から流れ出した水は海へと至り、沿岸部にもう一つの
海中の森ともいえる豊饒な海藻の植生を作り出します。その海水はまた、
多様な生物を養うのです。つまり伊勢神宮の式年遷宮が、結果として長い
サイクルの自然循環を守り、そのような仕組みこそが、日本人の古来の
自然観に基づく信仰となっていたのです。

この映画を観終えてまず私が感じたのは、我が国固有の宗教である神道という
ものが、明治時代以降二度に渡って歪められたのではないか、ということです。
すなわち、明治政府は欧米に伍する急激な近代化を推し進めるために、天皇を
中心とする中央集権的な国家神道を生み出し、第二次世界大戦敗戦後には
そのような神道の在り方が、侵略思想の元凶として処断されたその結果、
私たちは神道が本来有する森羅万象あらゆるものに対する謙虚さ、その心の
持ち方から生まれる礼節といった徳目を見失ってしまったのではないか?

この映画は忘れがたい美しい映像、音楽と共に、この重い問いを観る者に
投げかけて来るように感じました。

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