題名はかなりセンセーショナルですが、決して際物の本ではありません。それどころ
か、統計資料を客観的に分析して、荒れる高齢者の問題を社会的視点に立ち、論述
しています。
確かに最近マスコミなどでも、老人の蛮行が取り上げられることがよくあります。具体的
には駅員への暴力、高速道路での逆走を報じるニュースをかなりの頻度で見かけます。
また私自身も、実際に社会生活の場で、店員、係員、周囲に居合わせた人に、理不尽に
声を荒げる高齢者を見かけたことがありました。
以前には一般的な老人のイメージは、実際の個人的な人間関係上は、煙たくて頭の上が
らない相手という部分もありましたが、落ち着いていて思慮分別があり、穏やかな存在と
認識されていたのは、間違いのないところでしょう。
それで従来そのような存在とみなされていた老人が、イメージとのギャップが激しい蛮行
に及ぶ様が人々を驚かせ、マスコミの格好の対象となるのだと、思われます。更には、
そういうことが報じられたり、実際に目にすることによって、私たちも近頃の高齢者は一体
どうなっているのだろうと、感じたりするのです。
さて本書ではまず統計を用いて、この国では本当に老人が突出して、暴力的になっている
のかということを分析します。そしてそこで明らかになるのは、全世代の暴力的な事件が
減少している中で、高齢者の人口が著しく増加して、その世代の暴力の多さをいやがうえ
にも目立たせていること、また老人の暴力は他の世代に比べて傷害に及ぶことが少ない
ことを示します。
この事実は、私たちがことさらに高齢者の蛮行を意識し過ぎていることを明らかにします
し、同時に統計資料というものが見せ方によって、人々の意識を恣意的に誘導する可能性
を秘めていることも、示します。折から厚生労働省の統計不正問題が世間を騒がせて
いますが、その点でも本書は十分示唆的であると、感じました。
本書では高齢化の進展に伴い、近頃の老人がキレたり怒ったりしやすい理由を、認知
科学の見地から脳の前頭葉の機能低下として説明していますが、その詳しい内容は本書
を参照していただくとして、他方社会的には、高齢者に向けられる冷たい視線が彼らの
孤立感を深め、精神的に追い詰めて自暴自棄の行為に走らせているとも語ります。
更なる高齢化社会の到来も避けられない現在、私たちにとっても決して他人事ではない
老いという問題について、考えるヒントを与えてくれる好著です。
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