2019年2月3日日曜日

高志の国文学館・編「堀田善衞を読む 世界を知り抜くための羅針盤」を読んで

堀田の著作は、かつて『ミシェル 城館の人』と『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』という
後期の2作品を読んだことがあります。特にミシェル・ド・モンテーニュの評伝である
前作を読んで、私は宗教動乱期のボルドーで自身の信念を堅持しながら市長として
市政のかじ取りに勤め、また名著『エセー』を著したこのモラリストに感銘を受け、
その生き方を以降の人生の指針ともしたいと、感じたものでした。

それで本書が、2018年が堀田の生誕100年、没後20年に当たり、出身地富山県の
高志の国文学館で記念展が開催されたのに合わせて、彼の作品から影響を受けた
著名人・池澤夏樹、吉岡忍、鹿島茂、大髙保二郎、宮崎駿のインタビューから編集、
刊行されたことを知り、早速手に取りました。

さて本書を読み終えると、改めて堀田が各界に大きな影響を及ぼした知の巨人で
あったことを思い知らされます。私は前述のように後期の作品しか読んでいなかった
のですが、彼のそこに至る経歴を知らなかったこともあり、また彼が著述の中で自ら
の知識や権威をいたずらに誇示することもなく、全く自然体の語り手に徹していた
こともあって、それらの作品に堅苦しさといったものを全然感じませんでした。それが
また、彼の文学の魅力の一つであると、今は思います。

本書の刊行のためにインタビューを受けた、それぞれに各界で活躍する人々の話を
概観すると、堀田は自身の東京大空襲遭遇や終戦間際の混乱期の上海での体験
を通して、自然災害や戦争などの人為的動乱の渦中に、いかにして自分を保ち、
生き抜いて行くかということを終生のテーマとして、著述活動を続けたことが分かり
ます。

その思いは決してぶれることがなく、また頻繁な海外渡航や外国滞在を経て、その
視線は国内にとどまらず、広く世界に向けられることとなりました。同時に動乱時に
自らを冷静に保持するすべは、文学を通して積極的に世界と向き合い、平和を
希求することにつながって行ったと感じられます。

再び混迷の度を増す現代の国際社会においては、堀田の訴えかけるものが改めて
貴重な示唆を私たちに与えてくれるに違いないと確信しますし、私自身は、彼の初期、
中期の作品を是非読んでみたくなりました。

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