堀田の著作は、かつて『ミシェル 城館の人』と『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』という
後期の2作品を読んだことがあります。特にミシェル・ド・モンテーニュの評伝である
前作を読んで、私は宗教動乱期のボルドーで自身の信念を堅持しながら市長として
市政のかじ取りに勤め、また名著『エセー』を著したこのモラリストに感銘を受け、
その生き方を以降の人生の指針ともしたいと、感じたものでした。
それで本書が、2018年が堀田の生誕100年、没後20年に当たり、出身地富山県の
高志の国文学館で記念展が開催されたのに合わせて、彼の作品から影響を受けた
著名人・池澤夏樹、吉岡忍、鹿島茂、大髙保二郎、宮崎駿のインタビューから編集、
刊行されたことを知り、早速手に取りました。
さて本書を読み終えると、改めて堀田が各界に大きな影響を及ぼした知の巨人で
あったことを思い知らされます。私は前述のように後期の作品しか読んでいなかった
のですが、彼のそこに至る経歴を知らなかったこともあり、また彼が著述の中で自ら
の知識や権威をいたずらに誇示することもなく、全く自然体の語り手に徹していた
こともあって、それらの作品に堅苦しさといったものを全然感じませんでした。それが
また、彼の文学の魅力の一つであると、今は思います。
本書の刊行のためにインタビューを受けた、それぞれに各界で活躍する人々の話を
概観すると、堀田は自身の東京大空襲遭遇や終戦間際の混乱期の上海での体験
を通して、自然災害や戦争などの人為的動乱の渦中に、いかにして自分を保ち、
生き抜いて行くかということを終生のテーマとして、著述活動を続けたことが分かり
ます。
その思いは決してぶれることがなく、また頻繁な海外渡航や外国滞在を経て、その
視線は国内にとどまらず、広く世界に向けられることとなりました。同時に動乱時に
自らを冷静に保持するすべは、文学を通して積極的に世界と向き合い、平和を
希求することにつながって行ったと感じられます。
再び混迷の度を増す現代の国際社会においては、堀田の訴えかけるものが改めて
貴重な示唆を私たちに与えてくれるに違いないと確信しますし、私自身は、彼の初期、
中期の作品を是非読んでみたくなりました。
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