2017年12月25日月曜日

京都文化博物館「至宝をうつすー文化財写真とコロタイプ複製のあゆみー」を観て

本展は京都の美術印刷の老舗便利堂の創業130周年を記念した、同社の制作物
などのまとまった展示を通して、一般の鑑賞者にも分かりやすくその仕事の内容を
紹介しようとする展覧会です。

私は以前当文化博物館で、表面が尾形光琳筆「風神雷神図」、裏面が酒井抱一筆
「夏秋草図」の元の姿を忠実に復元した、同社制作のコロタイプ複製の屏風を観て、
その精巧さに感銘を受けたので、本展を観ることにしました。

とはいってもこの展覧会を観るに当たって、当初は複製品と印刷物の展示ということ
で、美術展に行くよりは多少軽い気持ちで会場に向かいましたが、実際に観てみると
期待以上に充実した内容で、複製品制作の重要性についても新たな知識を得ること
が出来ました。

まず展示の冒頭では、現在の精密な写真複製が生まれる以前には、どのような形で
古文書などが伝えられて来たかとということを分かりやすく示す例として、「日本書紀」
や「源氏物語」の筆写作品から起こしたコロタイプ複製が展示されています。

それぞれに本来の原本は恐らく最早現存しておらず、筆写による模写作品が残って
いる故に、その姿を我々が認識することが出来るということです。従って、模写作品は
失われた古文書、文化財を知るために大変重要であり、しかし他方筆写した人物の
原本解釈や主観による改変がなされていないかにも、留意する必要があるということ
です。

さて便利堂は撮影した写真から元の姿を忠実に再現するコロタイプ複製の技術を
開発し、その技術が現代の文化財複製に活用されているといいます。展示されて
いる法隆寺金堂壁画や高松塚古墳壁画の複製品の臨場感には驚かされると共に、
それぞれの元の作品が消失や劣化により本来の姿を失っているという事情もあって、
古文化財の鑑賞のためにも、研究のためにも、大変貴重であると実感しました。

これらの複製制作の技術が高度な職人技であることも含め、美術の分野における
複製技術の重要性にも、私たちはもっと目を向けなければならないと、本展を観て
改めて感じました。

0 件のコメント:

コメントを投稿