2017年12月16日土曜日

板尾創路監督映画「火花」を観て

この映画はお笑い芸人の世界を描き大きな反響を呼んだ、又吉直樹の芥川賞受賞
小説が原作で、私がその作品を読んで強い感銘を受けた上に、しかも監督が芸人
でもある板尾創路ということで、期待感を持って映画館に向かいました。

映画のストーリーはほぼ原作に忠実で、この作品の成功の秘訣は一重に、漫才に
並々ならぬ情熱を持って打ち込みながら、不幸にして笑いの感覚が世間とずれて
いる神谷と、その神谷に心酔し、自らも理想の漫才表現を求めて苦闘する徳永
という二人の売れない芸人で、師弟関係にある主人公役の俳優たちの演技力と、
それを引き出す演出に限られると思っていましたが、特に徳永役の菅田将暉は
秀逸であると感じました。

漫才を知り尽くした板尾監督の面目躍如と感じさせられたのは、原作でも一つの
見せ場である公園で太鼓を演奏する男と二人が遭遇する場面。太鼓のリズムに
合わせて掛け声を上げながら神谷が躍り出し、つられて徳永も踊ると、空はにわか
に描き曇り、雷鳴が響き、雨が降り出します。

このシーンは、漫才の間や掛け合いの極意を示してくれているようで、私はこの場面
に監督がこの映画で訴えかけたかった事柄が、凝縮されているように感じました。

少し予想外かも知れませんが、このシーンを観て私はすぐに、宮崎駿監督作品
「となりのトトロ」の中の、夜中に庭で植物の発芽を促すために五月やトトロたちが
祈りながら躍る場面を連想しました。いずれも新しいものが生まれる瞬間を象徴して
いるのでしょう。映画「火花」の中でも語られていますが、漫才にしても映画にしても、
その連綿と続く歴史の一つのピースとして、現在の営みがあるということを暗示して
いるのかも知れません。

この映画は、笑いの深いところを探究する少しマニアックなところがありますが、私は
十分に楽しめたと感じました。

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