2017年7月28日金曜日

細見美術館「驚きの明治工藝」を観て

我が国の明治期以降の近代美術については、洋画、日本画の展覧会は折に触れて
催され、現代でも人気のある絵画も多く存在します。しかし工芸については、今まで
あまり紹介されることがなく、従って私も、あまり注目することがありませんでした。
その明治期の工芸品の秀作を展観する展覧会が開催されるということで、足を運び
ました。

まず驚かされたのは、本展の展示品が全て、台湾の宋培安という一人のコレクターに
よって蒐集されたものであるということで、明治期の我が国の工芸品が輸出を主眼に
制作されたことの証左でもありますが、江戸期の日本絵画をまとまった形で蒐集した
外国人コレクター同様に、異国の地に我が国の美術品をこよなく愛する人々が存在
することを、嬉しく思いました。

さて本展の第1章写実の追求ーまるで本物のようにーの最初に展示されているのは、
自在置物という作品たちで、これは鉄、銀などの金属を加工して動物、昆虫などを
制作し、一見本物と見まがうような外見を有し、しかも部品の組み合わせ方などに
工夫を凝らし、様々なポーズを取ることが可能なように作り出された置物です。

質感は金属でありながら、あまりにも本物そっくりなので驚かされますが、例えば蛇の
置物は、とぐろを巻き、鎌首を持ち上げる姿態や、体をくねらせ今まさに前進しようと
しているポーズを取ることが出来ます。本展では会期中に展示替えならぬポーズ替え
を行って、この様子を分かりやすく示すといいます。

また自在置物のもう一つの特徴は、実在の生き物だけではなく、龍、鯱の架空の
生き物も制作されていることで、これらの作品は精巧であるだけに、ロマンやユーモア
を感じさせてくれます。

自在置物を制作するための高度な技術が、江戸期以前の甲冑制作などの技術の
蓄積によって培われたことは、この明治期の工芸品が伝統の継承の上に生み出された
ことを示し、またそれ以前の工芸品の制作者にはあまり写実の意識がなかったという
事実は、自在置物が明治以降に西洋から流入して来た価値観に強く影響を受けている
ことを示しているでしょう。これらの工芸品は、我が国の明治期に生まれるべくして
生まれた作品だと、感じました。

他に写実と繊細さを兼ね備えた木彫作品。また第2章技巧を凝らすーどこまでやるの、
ここまでやるかーでは、陶芸、七宝、金工、漆芸などに微に入り細を穿つ技が認められ、
さらに天鵞絨友禅では、伝統技法に西洋的な美意識を融合させようとする工夫を、感じ
ました。

私の工芸観をある意味で転換させる、驚きの連続でした。
                                      (2016年12月11日記)

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