2017年7月2日日曜日

鷲田清一「折々のことば」793を読んで

2017年6月24日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」793では
刃物店主・研究家土田昇の「職人の近代」から、次のことばが取り上げられています。

 上手な職人が使用した道具というものは美しく残るものです。

私の日々の悉皆業務で接する職人さんたちは、大抵自らで工夫した道具を使用し、
あるいは既存の道具でも大切に使っています。

それは言うまでもなく、道具がその職人が技術を発揮するための欠かせない手段
であり、自身の身体の一部とでも言ってもいいものだからでしょう。

具体的に述べると、染色補正の職人は、自らで工夫をした補正剤や刷毛などの用具
を使い、生地に付着した汚れや染みの具合に応じてそれらを使い分けて、欠点を
直します。いろいろな症状に対応して、依頼者の要望に答えるのが、腕の良い職人
ということになります。

引き染の職人は、自分が使用する染料を吟味し、染め刷毛も用いる色別、形や
大きさなど各種を揃えて染色を行います。また生地をピンと伸ばして染料を引きやすく
するために、生地裏に幾本も渡す伸子も色別に使い分け、また使用した後には、
次回使用する時に生地に染料が付着しないように洗います。気温や湿度によって
微妙に変わる発色などを考慮しながら、依頼者の求める色にむらなく染め上げるのが
腕の良い職人です。

まだまだ例を挙げると切りがありませんが、腕の良い職人は自らの仕事にプライドを
持ち、それに応じて道具を大切にしています。そのような職人仕事が何時までも失われ
ないことを、私は心から願っています。

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