2017年7月12日水曜日

湊かなえ著「リバース」講談社文庫を読んで

本作が原作の藤原竜也主演の連続ドラマを初回から見て、すっかり気に入ってしまった
ので、原作も読んでみることにしました。

湊かなえは、作品が映画化されて大ヒットするなどの人気作家で、一度読んでみたいと
思って来ましたが、何か身近に感じ過ぎて機会を逃して来ました。ドラマと比較して読む
という格好の口実が出来て、心置きなく手にした次第です。

ドラマと原作との違いから述べると、ドラマは長丁場を移り気な視聴者に飽きられること
なく乗り切るために、原作にはないキーとなる登場人物を作り出し、あるいは主人公の
友人たちの現在の日常生活の描写にふくらみを持たせるために、関係する人物を付け
加えるなど、原作より物語の舞台を広げ、その結果時事的な関心にもつながる社会性を
帯びた作品となっています。

また原作の終わり以降のストーリーもいくらか描き出して、主人公の以後の人生の輪郭を
よりはっきりとさせています。ドラマはドラマで良く出来ていて、十分に満足しました。

それに対して原作は、主人公の心をより深く掘り下げる物語になっています。私も少年期
から青年期には、自意識は強いのに自分に自信が持てず、劣等感に苛まれ鬱屈した
人生を送っていたので、主人公の深瀬に共感できるところがありました。

彼は大学を出て、可もなく不可もない社会人生活を送っていますが、自分にはもったい
ない恋人を得たことを切っ掛けとして、大学時代に唯一の親友と信じる広沢を、ある
忌まわしい事故で失った記憶を呼び覚まされることになります。

この時点で重要なのは、ゼミ仲間の旅行で広沢が多少酒を飲んでいたにも係わらず、
悪天候の中車を運転する羽目に陥り、あげく事故で命を落とす直接の原因を作ったのは
自分ではないという深瀬の確信で、ゼミ仲間全員で示し合わせて事故の原因を隠している
という後ろめてさはあっても、それ故「深瀬和久は人殺しだ」という告発文を目の前にして、
その送り主を特定するために、広沢がどのような人間で、亡くなるまでにどんな人生を
歩んだかを、彼が調べることになります。

深瀬にとって広沢の生い立ち、交友関係、どんなものの考え方をしていたかを調べる
ことは、自らの内面や生き方を省みることになり、その結果彼は、これからの人生に自信を
持って立ち向かう根拠を見出せそうになります・・・・。

物語は二転三転、ミステリーらしいスリリングな展開に読者はドキッとさせられますが、度肝
を抜かれても違和感のないストーリーは作者の才気を感じさせ、対照的に深瀬のしっかりと
した心理描写は、読者の共感を呼びます。

また湊かなえの作品を読みたくなりました。

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