2019年9月24日火曜日

美術館「えき」KYOTO 「ショーン・タンの世界展」を観て

ショーン・タンは、オーストラリア生まれのイラストレーター、絵本作家で、2006年に
移民をテーマにしたグラフィック・ノベル『アライバル』を発表、一躍国際的に知られ
るようになりました。

本展は、彼の大規模な個展で、私は今まで彼のことを知りませんでしたが、この
展覧会のポスターの絵柄に惹かれて、観ることにしました。

まず前述の『アライバル』、この作品は言葉は一切なしで、綿密に構成した絵を
配列することによって、一つの物語を作り上げている、ということです。

しかもその構成に際して、まず彼の作品の特徴である、物語の中で人間と共存す
る現実にはいないおかしな生き物の、キャラクターデザインの周到な造形は言う
に及ばず、下描きや習作、実際には作品には登場しないセリフや詞書き、絵ある
いは写真を用いたコンテなどが準備されて、その上に初めて作品が出来上がって
いるので、幻想的で不思議な物語に、リアリティーと話の奥行きが生み出されてい
ます。この点が彼の作品の最大の魅力であると、感じました。

後に映画化されて、2011年にアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した、原作
の絵本『ロスト・シング』も、同様の綿密な制作準備を経て作品化されているので、
キャラクター造形や場面設定、ストーリーに説得力があり、映像化にも十分に耐え
る完成度を有していたのだと、思われます。

会場の最後のスペースでは、実際にこの映画化作品を全編観ることが出来ますが、
絵本のイメージを更に膨らませた、独特のファンタジーの世界を有する物語に、
仕上がっていました。

ファンタジーやSFの要素を前面に出しながら、環境問題など社会的なテーマにも
作者の関心が及んでいて、観る者は楽しみながら同時に、自分たちの未来につい
ても考える、展覧会になっています。

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