2017年11月28日火曜日

帚木蓬生著「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」を読んで

私が本書を手に取ったのは、「ネガティブ・ケイパビリティ」という初めて聞く言葉に
惹かれたからです。この言葉は、”容易に答えの出ない事態に耐える能力”という
ことを表すそうです。

私たちの日常は、簡単には答えの出ない事態に満ちています。それゆえ、このような
事態に如何に対処するかが、生きて行く上での永遠の課題であるとも思われます。

その方法をハウツー本的に伝授してくれる書物。著者が精神科医で作家ということも
あって、私は最初、そんな手軽な気持ちで本書のページを開きました。

しかし読み始めると、その安易な期待は叶うものではないと、直ぐに気付かされ
ました。

考えてみれば、人生永遠の課題の的を射た答えが、一冊の本によって直ちに示され
るなど、そんなに虫のいいことが有るはずがありません。

これこそが本書の著者が、ネガティブ・ケイパビリティを獲得することの難しさの理由
として、一般的に人の脳が安易に答えを求める性質があることを示した事実の、
端的な証左なのかも知れません。

そういう訳で本書は、著者が精神科医として日々の臨床の中から導き出した、
精神医療の現場のみならず、文学や芸術、教育、政治においても、ネガティブ・ケイパ
ビリティの能力が広く求められることを、信念を持って示す本です。

ではこの能力は、具体的にはどのようなものであるかを、本書の記述から引いてみる
と、対象に対して常に共感を持ちながら、直ぐに答えや理由を求めず、不確実さや
不思議さ、懐疑の状態に耐えられる能力、ということになります。

この能力を有すると、対象に対して先入観のない謙虚な姿勢で向き合うことが出来、
また持久力を持って取り組むことによって、気付きや閃き、さらには創造性を生み出す
ことが出来るといいます。

しかし前述のように、この能力は一朝一夕に獲得出来るものではありません。では
どうすればいいか?

本書に記された、その能力を有する人の事例から推し量ると、合理性や功利性から
離れた純粋な教養としての文学や、芸術を味わうすべを身に着け、人との交わりの
中で他者に対する共感力を高めること、であると感じられました。

何事につけても、その対極にあるポジティブ・ケイパビリティの価値観が尊ばれる
この時代、それ故にネガティブ・ケイパビリティの重要性を敢えて主張する著者の
情熱に、共感を覚えました。

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