2016年11月26日土曜日

漱石「吾輩は猫である」における、哲学者の講釈

2016年11月23日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「吾輩は猫である」連載146では
苦沙弥邸を訪ねた旧友の哲学者先生が、彼の最近煩わされている問題に
答えて、西洋と日本の文明の違いについて講釈する、次の記述があります。

「西洋の文明は積極的、進取的かも知れないがつまり不満足で一生をくらす
人の作った文明さ。日本の文明は自分以外の状態を変化させて満足を求める
のじゃない。西洋と大に違う所は、根本的に周囲の境遇は動かすべからざる
ものという一大仮定の下に発達しているのだ。・・・」

普遍的で重く、現代にも通ずる問題です。漱石が明治の当時にこのような論を
展開していた事実に、彼の透徹した見識を改めて感じさせられます。

東洋的な価値観の下に育まれて来た日本の文明に、突然西洋的なものの
考え方が侵食して来て、日本人はずいぶん戸惑ったのでしょう。

根本的には上記のように、現状に満足する精神状態を養うことを至高の価値と
する考え方の中に、突然変化や成長を最善の価値とする考え方が入って来た
ということでしょう。

爾来日本人は、この二つの異なる価値観の間に引き裂かれているように、感じ
られます。そして現代に至って、西洋的なものの考え方がだんだん優勢になって
来て、しかし心の底に残っている伝統的な価値観はなかなか拭い去ることが
出来ず、我々は疎外感に苦しんでいる。これがさしずめ今日の精神状況の
図式のように思われます。

漱石は既に、明治の時代にこの苦悩を味わっていたのでしょう。

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