2016年11月16日水曜日

鷲田清一「折々のことば」578を読んで

2016年11月15日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」578には
画家、絵本作家いせひでこの絵本「ルリユールおじさん」から、次のことばが
取り上げられています。

 名をのこさなくてもいい。 「ぼうず、いい手をもて」

手仕事というものは、本来無名の工人による地道な作業によって担われて
いたのでしょう。

つまり、最初誰もが自らの必要のためにものを作り、その中で巧みな人が
他の人からも依頼されてその品を専門に作るようになり、工人、職人となった
に違いありません。

そう考えると、もの作りやその製作品の本来の姿というものが、見えて来る
ような気がします。

白生地屋という私自身の仕事に引き付けて考えると、友禅や絞りなどの技法で
染色された呉服など、従来は、それぞれどの職人が携わったかは明らかでは
ないけれど、自ずからその担い手が素晴らしい美的感性や技巧の持ち主で
あると分かる、優れた品物が多くありました。

しかし今日では、無名の品物に優れたものはほとんど見かけなくなり、
作家作品と名打つものでも、本当に良い品物と感銘を受けるものが少なくなり
ました。

もちろん、生活習慣や経済環境の急速な変化や、それに伴う手仕事に対する
評価や価値の変転という、已むおえない現実があります。

でも私は、やはりものを作る人には根本のところでは、名より実という気概が
なければならないのではないかと、考えます。

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