2016年9月28日水曜日

漱石「吾輩は猫である」における、吾輩の運動考とイグノーベル賞

2016年9月26日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「吾輩は猫である」連載110には
最近人間世界で流行っている運動を巡って、人間の価値観の転換を吾輩が
考察する、次の記述があります。

「天の橋立を股倉から覗いて見るとまた格別な趣が出る。セクスピヤも千古万古
セクスピヤではつまらない。偶には股倉から[ハムレット]を見て、君こりゃ駄目だよ
位にいう者がないと、文界も進歩しないだろう。」

折しも今年のイグノーベル賞に、天の橋立の股覗きを科学的に考察した日本人の
二人の学者が選出されました。

天の橋立は、京都府北部丹後地方の宮津湾と内海を全長約3.6kmの長さに渡り
隔てる細長い砂州で、道状の一帯には自生している松並木が続き、独特の景観を
示して観光名所として有名です。

また股覗きといってこの景色を一望出来る高所に後ろ向きに立ち、自身の両足の
間から逆さまに覗き見ると、風景が反転して天上にまるで橋が架かっているように
見えます。

今回のイグノーベル賞受賞の研究によると、人間はこのように逆さまに景色を
眺望する場合、常日頃そのようなものの見方に慣れていないので、視界が狭まり、
対象が平板に見える傾向がある、ということです。このような人間の目の特性も、
股覗きの趣向を高めているのでしょう。

話は少し飛躍しますが、漱石は一つのものの考え方に凝り固まることや、皆が
一つのものの見方に傾倒することを、ことのほか嫌っていたのではないでしょうか?
そんな彼の性向が、この文章から垣間見られるような気がします。

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