2016年9月4日日曜日

池田浩士(文)高谷光雄(絵)「戦争に負けないための二十章」を読んで

絵と文で構成されながら、単なる絵本ではなく、戦争について私たちの日常の
視点から深く考えさせる、ユニークな本です。

まず染色家高谷光雄さんは、長年京都精華大学の教授を勤められ、独特の
シュールレアリスティックな表現で、私も個展を拝見するのを楽しみにして
来ましたが、この本ではその画風が文章と絶妙にマッチして、まるで水を得た
魚のように躍動しているのが、心地よく感じられました。

他方池田浩士氏の文章は今回初めて目にするので、比較のしようもありま
せんが、意識的にかみ砕いた文章で難しい問題を分かりやすく記し、それで
いて読む者に思索を深めさせる語り口が、読後も少なからぬ余韻を残します。

この本の最大の魅力は、喚起力のある絵と文章に導かれながら、抽象論や
非現実的で楽観的な議論、あるいは議論さえ憚られ意識的に遠ざける態度に
陥りがちな戦争を巡る問題を、一つ一つ順を追いながら考えるヒントを与えて
くれることです。

そのため最初各章の表題を通覧すると、これはもしかしたら戦争を賛美する
本ではないかと、目を疑いました。しかしその構成、言い回しが著者の巧みな
戦術で、反語的な問いかけが読者の注意をいやが上にも喚起して、それに
対する自身の答えを懸命に探させ、その上で問いかけの後に添えられた文献が
読者の思考にヒントを与える仕組みになっています。

最後に添付された「戦争に負けないために読みたい二十冊」に選ばれた本を
読むと、さらに戦争に対する思考は深まるでしょう。

すでに読んでいる本もありますが、追ってその中の何冊かを新たに、読んで
みたくなりました。

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