2016年9月12日月曜日

京都市美術館「三浦景生の染 白寿の軌跡」を観て

昨年九十九歳で亡くなった、京都染色界の重鎮三浦景生先生の回顧展です。

長年当店の白山紬を御愛用頂き、日展などでは先生の作品を観て来ましたが、
このような形でまとまった数の作品を観るのは初めてのことで、期待を持って
会場に向かいました。

まず冒頭に「菜根譚」など後期の代表的な作品が展示されていて、ほの黒い
背景から浮かび上がる軽妙かつ幽玄な根菜類が、独特の生命の根源や、
宇宙的な広がりを現出します。まさに先生の真骨頂の世界だと感じました。

それらの作品は白山紬に染色されているのですが、以降の展示室に並べ
られているもっと早い時期の作品が、題材や表現法に応じて綿や麻などの
異質の生地が素材として使用されていることから推し量っても、先生がご自身の
後期の作品世界に白山紬が相応しいと感じ、実際に用いて頂いたことが、誠に
手前みそですが、うれしく感じられました。こういう部分が、染色素材としての
白生地を扱う、私たちにとっての喜びでもあります。

60年~70年代の、面と色彩で画面を構成した抽象的な作品は、今回初めて
観ました。それらの作品も色彩が鮮やかで、表現が力強く、雄大で、この時代の
熱気のようなものを感じさせますが、題材や表現法は違えど先生が目指された
ものは、後期の作品にも通じると、感じました。

これも初めて観たのですが、晩年に力を入れられた陶芸の作品は、内より
にじみ出るかわいらしさ、飄逸味、ユーモアが何とも言えなず素晴らしく、
先生が楽しみながら創り、なおかつ独自の芸術性を生み出されていることに、
芸術家としての非凡さを再認識しました。

全体を観終えて、先生の創作者としての人生は満ち足りて、幸福なもので
あったろうと、感じさせられました。

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