2016年6月19日日曜日

滋賀県立近代美術館「ビアズリーと日本」展を観て

ビアズリーというとすぐに、オスカー・ワイルド「サロメ」の退廃的なモノトーンの
挿画が思い浮かびますが、私には実際それ以上の知見はなく、そのイラストの
発散する怪しげな雰囲気から、漠然としたイメージを形作っているに過ぎません
でした。それゆえ本展の開催を知って、少しでも彼の実像を知ることが出来たら
と、会場に足を運びました。

事実、勝手に思い描くイメージとは恐ろしいもので、ビアズリーはてっきり怪異な
風貌をまとった人物であると思っていましたが、本展冒頭に展示された肖像写真
は、神経質そうではありますが端正な印象を写し出しています。知識が乏しい
にも係わらず、闇雲にイメージを膨らませることの危うさを、図らずも実感した気が
しました。

さてモノトーンの彼の原画は、実際に観ると繊細、緻密で、白黒の微妙な階調も
限りなく美しく、まるで宝石箱の中のような趣があります。その上、限定された枠の
中に納まる構図にはあっと驚く大胆さがあり、描き出された図像には諧謔、ウィット
がほの見えます。

彼の斬新で美しい挿絵で装飾された書物が出版された時、例えば「サロメ」で
あれば、内容のセンセーショナルさも相まって、大きな熱狂をもって読書界に迎え
入れられたに違いないことが、見て取れます。このような感慨を抱かせることこそ、
直に美術作品としての原画、あるいは出版当時を彷彿とさせる原版本を観ること
の醍醐味でしょう。

ところで、これらの展示品はビアズリーの天才を余すところなく示してくれますが、
19世紀末のイギリスで彗星のごとく現れ活躍した彼が、時代の影響を否応なく
受けていることも伝えてくれます。

彼の作品は、構図や草木を用いた装飾の扱い方において、当時ヨーロッパ美術界
を席巻したジャポニズムの影響を色濃く受け、その日本趣味の吸収は、確実に
作品の光輝を増しています。またこの時代の出版技術の飛躍的な向上が、彼が
絶大な名声を得る土台を作り上げたのです。

ビアズリーのイラストの魅力は、日本的な美意識を内包していることもあったので
しょう、いち早く我が国にも伝わり、盛んに紹介されると共に、挿絵画家を中心に
近代の日本美術界に大きな影響を与えました。

本展の掉尾では、彼の影響を受けた我が国の創作家たちの版画、デザイン作品が
多く展観されています。観ている内に私も、かつて目にしたことのあるこれらの作品
を通して、知らず知らずの間にヨーロッパの美術のエッセンスの洗礼を受けていた
のかと、気付かされます。

本展は、近代の日英の文化が互いに影響を及ぼし合いながら、広がり、育まれて
いった好例を示す、展覧会です。

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