2016年6月10日金曜日

漱石「吾輩は猫である」における、ばつの悪い苦沙弥に可愛がられる吾輩

2016年6月7日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「吾輩は猫である」連載42には、
迷亭に痛いところを突かれた苦沙弥先生が、膝の上に寝そべる吾輩を
我知らず撫でる様子を描写する、次の記述があります。

「「歌舞伎座で悪寒がする位の人間だから聞かれないという結論は出そうも
ないぜ」と例の如く軽口を叩く。妻君はホホと笑って主人を顧みながら次の間へ
退く。主人は無言のまま吾輩の頭を撫でる。この時のみは非常に丁寧な撫で方
であった。」

猫の鋭い人間観察にかこつけた大変ユーモラスな表現です。こういう描写が
散見されるのが、「吾輩は猫である」の大きな魅力でしょう。

先般、苦沙弥の宅に迷亭、寒月が集まった時に、迷亭の松の木で首を括り
損なった話、寒月の橋から川に飛び込み損なった話、という自殺願望とも取れる
話題が出た時、主人もついつい変な対抗意識から、細君と歌舞伎座に出掛ける
時に突然悪寒に襲われたという、間の抜けた話を披露してしまいました。

迷亭はその話を暗にほのめかして先生をからかい、一方の当事者の奥さんは
呆れて苦笑しているの図、といったところでしょうか。

鈍感な先生も流石にばつが悪く、吾輩の頭を撫でることによって、その場を
やり過ごそうとしているのでしょう。

何だか人間にはそんな滑稽な部分があって、憎めないものだということを、
再認識させられた気がします。

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