2016年4月25日月曜日

兵庫県立近代美術館「ジョルジュ・モランディー終わりなき変奏」展を観て

テーブルの上に並べられた、瓶や器の静物画で名高い画家の回顧展です。

私が本展を訪れたのは、時々の展覧会で展示されている彼の1~2点の
静物画に触れる時、それが一見何気ない絵でありながら、なぜか惹きつけ
られるところがあると感じるからで、本展でその秘密の一端を知ることが
出来ればと考えたからです。

訪れてみるとこの展覧会は私と同様の観客の要望に答えるべく、一見単純で
実は奥深いモランディの静物画の魅力を、具体的に分かりやすく開示する
ことを目的として展覧されているようです。従って本展では必ずしも年代順に
作品が並べられているのではなく、静物画の限定された要素と空間の中で、
画家がどのような方法論で、一体何を表現しようとしたかを解き明かすべく、
展示が構成されています。

最初のセクションは、本展の中では比較的初期の作品が並べられていますが、
以降展開されて行くモランディの絵画の魅力の背景を知るために重要です。
これらの作品が制作された頃、彼は初期ルネサンスの画家の作品研究に
熱心であったようですが、後の作品に通底する簡素ではあるが量感があり、
落ち着いた色彩で調和の取れた画面には、その残り香を確かに感じることが
出来ます。

また彼に影響を与えた近代、近世の画家、セザンヌとシャルダンは、物の
形体の本質を見極める姿勢や静物画で何を表現するかという方法論において、
彼の絵画展開に大きな示唆を与えているように思われます。

モランディは静物画で気に入りの瓶、器を配列を替え、数を代え、あるいは
視点を変えて繰り返し描きましたが、本展でこれらの器類が必ずしもありのまま
の姿ではなく、この画家によって色、形状に加工が施されているものがある
ことを知りました。

そうすると彼の静物画はにわかに、色彩においても形体においても人為的に
構成された画面という意味を強めます。そしてそれらの静物画が順序立てて
並べられるとわずかな構成の違いが、観る者の心の深い部分においては、
大きな感覚の違いを生み出すことに気づきます。

また彼のもう一つの重要な仕事である、やはり静物のモノクロのエッチング
(版画)作品を観て行くと、これらの作品では器類に差す光の濃淡が、微妙な
美しい諧調で巧みに表現されていて、この世の万物の運行の内から光の要素
だけ抽出したような趣があります。

つまりモランディはテーブルと壁と器という閉じられて限定された空間の中に、
無限の宇宙の秩序を見出そうとしたのではないか?そしてその成果が観る者の
心に静かに染み入り、決して派手ではないが着実な感動を生み出すのです。

地道な仕事の繰り返しが大きな達成を生み出すことを再確認させてくれる、私に
とっては刺激的な展覧会でした。

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