2015年12月14日月曜日

滋賀県立近代美術館「生命の徴ー滋賀の「アール・ブリュット」」を観て

滋賀県では、福祉施設での長年の造形活動の取り組みによって、近年注目
される「アール・ブリュット」という美術概念に照らしても、独特の成果を収めて
来たといいます。

「アール・ブリュット」は、フランスの画家ジャン・デュビュッフェが提唱した、
正規の美術教育を受けていない人による純粋な美術活動及び作品ー生の
芸術ーという概念ですが、その中でも大きな位置を占める障がいのある人々の
造形活動において、この地は有力な作家を生み出しています。

2019年に、「アール・ブリュット」を新たにコレクションの核として加える計画の
滋賀県立近代美術館が、その指針を示す目的で開催した展覧会です。

私にとって、「アール・ブリュット」と名打つ、あるいは障がいのある人の
造形活動を、美術館で観るのは初めての体験で、正直なところどういう
受け止め方で作品に向き合うべきか、最初は戸惑いました。

当初、作品に添えられた作者や作品の説明書きも相まって、特別な存在の
人が、その創作活動なくしては自らの生を持続出来ないような切実な思いを
持って、文字通り身を削るように制作した作品という先入観が邪魔をして、
純粋にその場にある美術作品を楽しむという気分になれなかったのですが、
観つづけて行くうちに、作者自身の根源的な情動のいかなる雑念にもゆるがせ
られない吐露として、次第に驚きと感動を禁じえなくなりました。

その作品には、原始美術に通じるような大地に根差した力強さ、おおらかさが
あり、他方自分の身内より湧き出て来るものを、何としても形にとどめようと
する、気の遠くなるほどの執拗さ、ち密さがあります。

考えてみれば、文明の発達と共に私たちが失いつつある、原存在としての
人間の姿を、これらの作品はもう一度問い直して来る力を持っているのです。

近年は、鋭敏な感覚の持ち主である一部美術家も、その魅力に気付き、彼らと
障がいを持つ作家とのコラボ作品も生み出されて来ていることが、本展でも
示されます。この展覧会は、「アール・ブリュット」の芸術を先入観を排して
楽しむ術を与えてくれたという意味において、私にとって忘れられないものと
なりました。

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