2015年12月11日金曜日

漱石「門」における、宗助の家に同居し始めた小六の不安

2015年12月8日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「門」105年ぶり連載
(第五十回)に、叔父の佐伯が亡くなって、最早そちらで学費や生活の面倒を
見てもらえなくなった小六が、やむをえず宗助の家に同居することになり、
将来への不安が御米との会話に顔をのぞかせる、次の記述があります。

「 小六はその時不慥な表情をして、
  「そりゃ安さんの計画が、口でいう通り旨く行けば訳はないんでしょうが、
段々考えると、何だか少し当にならないような気がし出してね。鰹船もあんまり
儲からないようだから」といった。御米は小六の憮然としている姿を見て、
それを時々酒気を帯びて帰って来る、どこかに殺気を含んだ、しかも何が癪に
障るんだか訳が分らないでいて甚だ不平らしい小六と比較すると、心の中で
気の毒にもあり、また可笑しくもあった。」

小六もようやく、佐伯の息子の安さんが夢ばかり追いかけて、実際にはあまり
頼りにならない人物であることに、感づき始めたのでしょう。

彼には自分の将来に対する不安、あるいは身のやり場のないことへの大いなる
不満があり、酒でも飲んで気を紛らわせるしかないのでしょう。

御米はその小六の気持ちが十分に分かっていて、しかし宗助や自分では救って
やれないことが不甲斐なく、またこの事態の遠因には自分たちのあの事件がある
ことも罪悪感を募らせ、ますます自らを苛むのでしょう。

何か彼女に同情を禁じえなくなって来ました。

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