2017年8月22日火曜日

「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」中公文庫を読んで

私は元来、第二次世界大戦を軍事戦略論的に見る視点には、あまり興味を感じません
でした。なぜなら、多くの死者と数限りない悲嘆を生み出したあの戦争を、一種ゲーム
感覚の覚めた視線で分析する論に、何か表層をなぞるだけのような感触を持つから
です。

しかしこの論考の、軍事戦略的な視点を用いながら、真摯に日本軍の敗北の本質を
明らかにしようとする姿勢に動かされ、敢えて本書を手に取りました。

日本軍の敗北の原因を考える時、まず第一には圧倒的な国力の差のある米国に対し
てなぜ戦いを選択したのかということが、大前提としてあると思います。しかし本書が
一章で失敗の事例研究として取り上げている6つの戦いの時系列に沿った展開を見て
行くと、彼我の兵器、軍事装備の性能及び物量の大差は已むおえないとしても、個々の
戦闘の局面で一度劣勢に立たされた時、日本軍は作戦上非合理な選択を繰り返し、
大敗に至っていることが分かります。

二章ではこれらの事例に共通する日本軍の失敗の原因を、米軍と比較しながら、
戦略上と組織上の問題点に別けて分析しています。つまり米軍は明確な戦略目的を
持ち、長期的な戦いを視野に入れ、陸海空軍を融合した総合的で柔軟性に富む作戦
計画を有するのに対して、日本軍は戦略目的が不明確で、短期決戦を志向し、陸海軍
の協調は不十分で、場当たり的で硬直した作戦計画しか持ち合わせません。

また兵器、装備においても米軍が技術を標準化して、一定以上の性能のものの量産化
に成功しているのに対して、日本軍は大艦巨砲主義に代表されるような一点豪華主義
に陥っています。

また両組織を比較してみても、米軍が階級制度を柔軟に運用し、その前提として教育を
充実させ、人事考課を合理的に行っているのに対して、日本軍は年功序列の硬直した
階級制度で、幹部候補の教育も机上のものが中心で、人間関係に左右される
温情主義的な人事評価が行われていたといいます。

そして三章ではなぜ日本軍がこのような弊害に陥ったかが探究されていますが、総合
すると日本軍は近代的官僚制組織と集団主義を混合させた不完全な組織であり、その
上に日清、日露戦争の戦勝体験が拍車を掛けて、自己革新を怠る組織になってしまった
ということになります。

この論の結論を読むと、単に軍隊の組織論の枠を超えて、日本という国が明治以降の
西洋的価値の導入による急速な近代化の中で、なお封建的な思想を色濃く残す、
いびつな発展を遂げて来たこと。また更に敗戦後においても、理念や制度の形を受け
入れることには巧みでも、本質を理解し、深い部分からそれを運用することが苦手な、
日本人の気質が見えて来る気がします。

0 件のコメント:

コメントを投稿