2017年6月16日金曜日

国立国際美術館「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展を観て

イタリア・ルネサンス期の絵画というと、まずフィレンツェのそれを思い浮かべます。
しかし同じ頃ヴェネツィアでも、豊かな芸術上の達成がなされたといいます。日伊
国交樹立150周年を記念して、アカデミア美術館所蔵の名品による、ヴェネツィア・
ルネッサンスの絵画展が開かれるということで、大阪まで足を運びました。

会場でまず私を迎えてくれたのは、ヴェネツィア・ルネッサンスの祖といわれる
ベッリーニの「聖母子(赤い智天使の聖母)」、初期のフィレンツェ・ルネッサンスの
絵画が全般に色彩豊かで、生の喜びに満たされている印象を与えると同時に、
いくらかまだ初々しく硬い感じを受けるのに対して、この作品では画面上部の雲に
乗っかっている赤い天使たちが、表現として洗練される以前の直接性を示しながら、
全体として色彩の対比が素晴らしく、聖母子の表情、ポーズも聖性を帯びてなお
現実の人間らしく生き生きとして、時代を超越した高い完成度を感じさせます。

この一作品を観るだけで、ヴェネツィアとフィレンツェのルネッサンス絵画の特徴の
相違を、端的に理解することが出来るように感じました。

ヴェネツィア・ルネッサンスを代表する画家ティツィアーノが活躍する時代になると、
この地の絵画はより躍動感に満ちた、大胆かつ劇的な表現、詩情豊かで感覚に
直接訴えかける傾向を強め、本展の目玉である4mを超える大作ティツィアーノ
「受胎告知」は、天上には神の啓示を示す光り輝く白いハトの周囲を天使たちが
寿ぐように乱舞し、地上ではマリアがガブリエルから神の子の宿りを告げられる
その瞬間を、力感溢れる強い筆致で劇的に描き出しています。まるで観る者を
圧倒するような迫力ある表現です。

後期のティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノになると、一つの画面でより多くの
ことを語ろうとして説明的な要素が詰め込まれ、その結果煩雑な印象を与える
作品が多いように感じられます。私は盛期の作品にシンプルさという意味でも
魅力を感じました。

ここまで作品を観て来ると、歴史上西洋の芸術表現というものが、キリスト教に深い
部分で規定されて来たものであることが、改めて見えてきます。ルネッサンスという
人間精神の復興が叫ばれた時代でさえ、表現の対象の中心はキリスト教に題材を
得たものであったのです。

そう考えると私たち東洋人がこれらの宗教画を観て、西洋人と同じ種類の感銘を
受けるのかは分かりません。しかし西洋の人々が、このような精神的な土壌の上に
今を生きていることを理解することは、意味があるでしょう。また彼我の違いを超えて、
同じく美しいものに感動出来るという気持ちを共有することにも、意味があるに違い
ありません。

これがすなわち、美術を通じた国際交流ということなのでしょう。

                                     (2016年11月23日記)

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