2016年12月30日金曜日

京都市美術館「ダリ展」を観て

私は今まで、シュルレアリスムの絵画を敢えてあまり積極的に観ようとしなかった
傾向があります。というのは、目で見たものを描くのではなく、頭の中で作り上げた
ものを描くというその姿勢に、何か嘘っぽさのようなものを感じていたからだと思い
ます。

ところが現代のグローバルで情報化された社会にあっては、何が現実で、何が
虚構であるかの境界線も曖昧になり、私たちが今日を生きているという実感も
なかなかつかみにくくなって来ていると、最近とみに感じるようになりました。

するとシュルレアリスムに対する私の受け止め方も変化して来て、もしかしたら
時代や社会に対して鋭い感性を持つ画家の脳のフィルターを通した絵画にこそ、
今日的な現実が色濃く反映されているのではないかと、思うようになって来たの
です。

ダリはシュルレアリスムを代表する画家の一人です。その名を聞くとまず、あの
風変わりな髭を思い浮かべ、私も彼のイメージの戦略にまんまとからめ取られて
いたのですが、今回この大規模な回顧展を観て、奇想という際物的な枠を超えて、
彼は紛れもなく世界の一つの現実を映し取ることに成功した画家であったと、感じ
ました。

まず、ダリが自身の画風を確立する以前の若描きの作品を観ても、それは
印象派風であったり、キュビスム的であったりするのですが、どこかに彼特有の
夢想的な気分、哲学的で硬質な雰囲気を宿す絵が多く見受けられます。すでに
彼の資質は抑えきれないものとして、顔を覗かせているのでしょう。

シュルレアリスム的な世界に居場所を見つけてからも、彼の芸術は止まることなく
変化、拡散の運動を繰り広げます。それは自らの思想を世界により広く知らしめる
ためでもあり、時代の要請に答えるためでもあったように思われます。

特に広島、長崎への原爆投下の後に生まれた作品群は、科学技術が人間の
思惑を超えて拡大し、逆に我々の思考や行動を規定する時代の到来を、予見的に
明示しているように感じられます。

ダリの芸術の魅力は、彼の過去から未来までも一望の下に見透かすような夢を
見る能力と、それを造形化する確かな描写力、一見冷徹のようでわれ関せず
というポーズを取りながら、にじみ出て来る詩情や人間への愛を、覆い隠すことの
出来ないところにあると、感じました。

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