2016年12月18日日曜日

細見美術館「伊藤若冲ー京に生きた画家ー」展を観て

若冲の生誕300年を記念して、この美術館所蔵のコレクション、他にゆかりの寺院の
所蔵作品などを展示する、展覧会です。

若冲というと代表作「動植綵絵」がすぐに思い浮かびますが、本展展示の作品も
数は多くはありませんが秀作揃いで、彼の世界をじっくりと味わうことが出来ました。

まず本展では少ない彩色画から、「雪中雄鶏図」は彼が画家として活動を始めた
初期の作品で、まだ奔放で自在な気風は発揮されていませんが、造形力の確かさ
と緻密な描写、鶏の鶏冠の鮮やかな赤と尾羽の黒、草木に積もる雪の白さの
コントラストが美しく、また残雪の形状の面白さも画面に躍動感を与え、確かに非凡な
ものを感じさせます。

「糸瓜群虫図」は限定された色使いの中で、昆虫の写実的な描写や葉の虫食い跡の
表現などに、まるで虫眼鏡で覗き込んだような緻密で科学的な視点を感じさせますが、
私はこの絵から洋の東西を遠く隔てた、フェルメールの絵画との類似性を見る思いが
しました。

さらに関連展示の書状から、かの文人画家富岡鉄斎が、この絵を高く評価していた
事実を知ることが出来て、時を隔てた天才画家の才能の呼応を間近に感じる思いが
しました。

さて本展には若冲の水墨画が多く展示されていますが、モノトーンと言っても彼の
水墨表現は墨の濃淡、様々な筆遣いや技法を駆使して実に多彩で、観る者を
飽きさせません。

特に今回の展示の説明書きで知った”筋目がき(すじめがき)という技法は、紙に筆を
置いた時の墨のにじみを考慮して、適度な間隔を開けて墨を入れることによって、
にじみとにじみの間に境界を作る高度な技法で、彼は自身発明したこの技法を使って、
花弁の重なりによるふくらみや、鶏の羽の密集した部分のふくらみを、見事に表現して
います。

若冲の水墨画で面白いのは、若い頃の作品より晩年の作品の方が造形も筆遣いも
大胆で自由奔放になり、滑稽味も出て来るところで、彼が老年に至って、全ての
わだかまりを捨てた解放の境地に遊んでいる様を感じさせます。このようなところも、
彼の絵に人気がある秘密の一つでしょう。

他に禅画風の作品や戯画様の作品など、彼が京の町に生きた人物として、寺院や
周囲の人々とのつながりを感じさせる作品もありました。若冲が時を超えて身近な
存在に感じられる展覧会でした。

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