2016年2月12日金曜日

細見美術館「春画展」を観て

昨年永青文庫で開催され、大きな反響を呼んだ展覧会の巡回展です。

長年タブー視されて来た春画の展覧会ということで、受け入れる美術館が
なかなか決まらなかったといいます。細見美術館の英断に拍手を贈りたいと
思います。

さて私自身も雑誌や美術書の図版で見たことはありましたが、実物を観るのは
初めてです。それだけ気合を入れて会場に赴きましたが、センセーショナルな
前評判にも係わらず、思っていたほどには混雑していなくて、少々肩透かしを
食わされた感がありました。まだ始まったばかりなので、これからかもしれません。

しかし鑑賞者の老若男女は、作品の中にはユーモラスな表現も見受けられる
のに、相対的に皆押し黙って厳粛な面持ちで春画に見入っています。また時折、
見知らぬ来場者同士の目が合うと、心なしか気恥ずかし気でもあります。題材が
題材だけに、見慣れたいつもの美術館風景とは違う趣がありました。

我が国は江戸時代以前には性風俗や性表現に対して寛容で、明治以降の
近代化と共に、西洋的な倫理観が導入されて規制が厳しくなったとは、今まで
聞かされて来たことです。

今回展観されている春画が、大名から庶民まで広く愛好されていたことを考え
合わせると、なるほどと頷かされますが、私の青年期ごろからの日本の性表現の
規制の変遷を振り返ると、取り締まりが厳しいほど表現は淫靡に流されて、
かえって猥褻性を増すように思われます。また反体制を旗印に、敢えて規制に
違反したり出し抜く行為が、喝采を浴びて英雄視されることもあります。

性行為は人間の必須の本能の一つで、青少年の健全な育成のためには、勿論
教育的配慮も必要ですが、歪んだ方向に向かうことや、扇情的になり過ぎることに
注意しながら、原則表現の自由は守られるべきだと、私は考えます。ちなみに
本展は、18歳未満入場禁止です。

出品作を実際に観た感想に移ると、まず名品揃いでその美しさに感動しました。
肉筆、版画とも細部まで精巧に表現された技術の高さ。特に繊細な毛の描写の
美しさ、艶やかさは感嘆に値します。

他にも絡まる男女の着衣の取り合わせの妙、装飾性や様式化。限定された行為を
いかに美しく、清新に見せるかと工夫された構図の大胆さや、省略の斬新さ。
後期の歌麿の作品などでは、睦み合う男女の表情の醸す情趣も忘れがたい。
紛れもない芸術性を感じました。

それにしても同じ行為を描く作品を、これほど繰り返し観ていても見飽きないのは、
私の中にも息を潜める本能ゆえでしょうか?

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