2016年2月15日月曜日

柳宗悦著「手仕事の日本」を読んで

「用の美」の提唱者で、「民藝運動」の理論的支柱である、柳宗悦の著書です。
全国に優れた手工芸品を求めて、20年余りの歳月を費やした後著わされた
本書には、この運動にかける柳の熱情が読み取れます。

当時の我が国における西洋的価値観の一般への広い浸透や、工業化による
大量生産品の流通によって、各地で連綿と培われて来た手工芸の技術が
衰えることに強い危機感を抱いた著者が、多くの人々に伝統的工芸品の良さを
再認識させ、その復興に注力した功績は、現代に至るまで計り知れないものが
あるでしょう。

その証拠に後年、経済産業大臣による伝統的工芸品指定の制度が生まれ、
今なお「伝統工芸展」が毎年開催されて多くの観衆を集め、優れた工芸品が
人々に尊重されるのも、柳の活動の影響によるところが大きいと、思われます。

本書の第二章、「日本の品物」では著者自身が全国をくまなく巡り、地域ごとに
秀でた特色ある工芸品を取り上げていますが、本書出版後70年近い時が経過し、
現在でも特産品として認知されているもの、最早失われた産品としてその形状
さえ珍しいものがあり、歳月の隔たり、それらを用いた頃からの習俗の変化を
実感させられます。

第三章「品物の性質」では、優れた手工芸品が生まれる理由を解説していますが、
まずそれを生み出す工人たちが名を成すことを目的とせず、修行を積むことに
よって伝統を力にし、作り出す品物に誇りを持つことを上げています。

また当時の社会環境から推し量って、多くは教育を十分に受けていないにしても
実直であり、信心深い場合もあったという記述に、私は先日知った、琳派の始祖
本阿弥光悦が法華経信仰を中心に据えて工芸村を開いた史実を、思い出し
ました。

また優れた工芸品は実用に適した「用の美」を備えるものであり、実用のための
制約はその素材の性質や、用途に規定される法則に従うものとして、機能美や
シンプルさを有するといいます。これらの柳の定義は十分に説得力があり、納得
させられました。

他方、著者が全国の手工芸品の価値を啓蒙した意義は認めるとして、工業化が
さらに進展した私たちの属する現代社会にあっては、工業製品のより一層の
普及や、生活習慣の変化によって、手工芸品は全般に大変高価で、日用使いを
離れた限られた人に愛好される趣味品となっています。

このような時代に柳の説いた優れた工芸品の成立条件を考える時、それは実際の
手仕事の産品の枠を超えて、広くもの作りに携わる者の有すべき心得、あるいは
製品が評価される基準となっているのではないかと、考えさせられました。

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