2015年9月4日金曜日

漱石「それから」の中の、兄に事の次第の説明を求められ、窮する代助

2015年9月4日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「それから」106年ぶり連載
(第百九回)に、平岡から実家の父宛に届いた手紙の、事の次第を確かめる
ために、急ぎやって来た兄と代助のやり取りを記する、次の記述があります。

「「御前だって満更道楽をした事のない人間でもあるまい。こんな不始末を
仕出かす位なら、今まで折角金を使った甲斐がないじゃないか」
 代助は今更兄に向って、自分の立場を説明する勇気もなかった。彼はつい
この間まで全く兄と同意見であったのである。」

まさにその通りでしょう。代助は経済的にすこぶる恵まれた環境の中で、親や
兄家族の機嫌を損ねることなく、適当にあしらいながら、気ままに好きなことを
して、暮らして来たのですから。

彼の処世術というのは、学識によって自身の周りに鎧を巡らせ、適当に欲望を
充足させながら、煩わしいものを避けて、気楽に生きて行くことだったはずです。

しかし、そのような生き方に虚しさも感じ始めていた矢先、彼は再び三千代と
運命的な出会いをしたのでした。

まるで失ってしまった青春の熱情を取り戻すかのように、彼は彼女にのめり
込んで行きます。これは最早、理に適った説明のつく話ではありません。

兄に問い詰められても、代助にはただ絶句することしか出来なかったでしょう。

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