2015年9月11日金曜日

西加奈子著「サラバ!㊤」を読んで

第152回直木賞受賞作です。西加奈子を読むのは初めてで、本作は主人公歩が
どうしても物語らずを得ない、自らの家族の歴史をとうとうと語る独白体様の
小説で、読む者は思わず、この家族の遍歴に引き込まれてしまいます。

歩は父親の赴任先のイランのテヘランで生を受け、帰国後また小学校一年生の
時期より、同じ理由でエジプト、カイロの日本人学校で過ごすことになるという、
いわゆる帰国子女ですが、本書を読んでいると、近年は経済活動の
グローバル化に伴い、海外勤務の日本人ビジネスマンも多く存在し、それに従い
外国に滞在する駐在員家族も多数に上ることから、彼や彼の家族が決して
特別な立場ではなく、この小説もある意味普遍的な日本人家族の物語に
思われて来ます。

上巻で私の最も印象に残ったのは、カイロでの歩たちの生活を記した章で、特に
彼と現地の子供との関わり、交流を描いた部分です。内省的で優しい心の
持ち主である歩は、まず現地の子供と自分の境遇の経済的格差に戸惑います。

同じ年頃の子供でありながら、生まれた国、置かれた立場が違うだけで、どうして
これほどの貧富の差が生じるのか?現地の子らが人懐っこく、また裕福である
人間から恵みを得ることに積極的であるだけに、歩は彼らへの対応に苦慮し、
自らの特権的立場に次第に罪悪感を募らせて行きます。

そのような中で、彼が出会ったのがヤコブです。ヤコブは同じ現地人の子供で
あり、決して経済的に豊かではないのですが、自らの境遇に誇りを持ち、
特権階級にも映る当地の日本人の子供である歩に対しても、臆するところが
ありません。

彼らはたちまち親友になり、二人が互いを励ます合言葉「サラバ!」が生まれる
契機となるののですが、この顛末の記述には、国際的な視野に立てば、
満ち足りた島国に暮らす私たち日本人の読者に対して、少し世界の現実に目を
開かせてくれる効用があるように、感じられました。

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