私たちの店が色々な種類と幅の白生地を商っている関係上、お客さまに
型絵染を制作している方も多く、その作品を目にすることもよくあります。
従って、本展第1部「多彩な造形表現」で、この染色技法の人間国宝
芹沢銈介の作品群を目の当たりにした時、まず湧き起って来た感情は、
一種の懐かしさでした。
つまり芹沢の仕事が、彼以降の型絵染の流布、発展に多大な影響を
及ぼし、多くの制作者たちが、その多寡のほどは別にしても、少なからず
彼の薫陶を受けてきたことを、今さらながら確認出来たからです。
そのように考えてみると、彼の作品が当時において、著しく革新的であった
ことに改めて気づかされます。
民芸運動に傾倒し、その志向はあくまで日用の美であったため、作品に
奇をてらうあざとさ、ことさら目立とうとする姿勢は感じられませんが、
その作品の魅力は明らかに、それまで存在しなかった美の一つの形を
提示したことにありました。
ではそれはどのようなものであったのか、ということに思いを巡らせる
ためには、本展の第2部「世界各国の美術・工芸品」が、明確な示唆を
与えてくれます。
芹沢は生涯に、世界各地の多くの美術、工芸品を蒐集しました。それらを
観てみると、彼が名もなき庶民の日常生活や宗教儀式などに、実際に
使用されていたものの中に潜む美しさや味わいを、確かな目で見出して
いたことが分かります。
つまり芹沢は、自らが愛して止まぬ、世界各地の人類の長い生活の営みの
歴史に通底する、日常の暮らしの潤いとしての美のエッセンスを抽出し、
彼の生きた時代と場所の要請に答える形で統合し、提示してみせたのでは
ないか?彼が私たちの前に、分かりやすい姿で示してくれた美の形が、
誰の心の中にも潜在的に存在するものの具現化であったゆえに、観る者は
深く心打たれ、彼の表した美の基準は、以降確固としたものとして、我々の
心に刻みつけられたのでしょう。
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