2015年3月14日土曜日

石井裕也監督 映画「バンクーバーの朝日」を観て

第二次世界大戦勃発までの四半世紀、実際にカナダのバンクーバーに
存在した日系人野球チーム「バンクーバー朝日軍」を題材にした映画です。

このチームは、カナダの移民社会と野球文化への貢献が認められて、
2003年カナダ野球殿堂入りを果たしましたが、その背後には、日系カナダ
移民の苦難の歴史が隠されていました。ストーリーも感動的ですが、その
語るところには深く、重い意味があるように感じられます。

まず第二次大戦以前には、多くの日本人が新天地を求めて、世界の
各地域に移民して行ったという事実です。これは彼らが国内での暮らしに
窮し、少しでもましな生活を求めて、国外に飛び出して行ったことを
現わしています。

戦前の日本が、まだ経済的には豊かではなかったこと、そのことを理由に
移民する人も多く存在したという現実を、高度経済成長後の現代日本社会に
生きる私たちが、想像することは難しいでしょう。

また移住者たちが最初現地で最下層に置かれ、過酷な労働に従事しながら
どうにか社会に定着したとしても、戦争という国際関係の激変によって、
一気に敵性国民として全ての財産、権利をはく奪された事実は、彼らの
地位がいかに不安定であったかを示します。

このことも、現代の私たちには実感しにくいのですが、経済的に発展した
日本に、今度は逆にブラジルなどから日系人が働く場を求めて来日すると
いうことや、欧米に移住するイスラム教徒の住民の存在が社会問題化
しているという事象は、富の国家間格差がなお、深刻な現実であることを
現わしています。

次に野球というスポーツに目を移すと、抑圧的な社会環境で朝日軍の
メンバーが、このスポーツに純粋に生きる喜びを見出していたことは、
手に取るように伝わって来ます。

また彼らがカナダ人チームとの体格差を克服するために、日本人の俊敏で
小回りが利く特性を利用して、バントと盗塁を駆使する「頭脳野球」で対等に
戦ったことも、今日の国際試合における日本野球の原点、あるいはもっと
広い視野に立って、社会活動において人間が自らの長所を生かすために
考え、工夫を凝らすという意味においても、朝日軍の足跡は、私たちに深い
思考を促してくれると感じました。

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