2015年3月22日日曜日

大江健三郎著「同時代ゲーム」を読んで

四国の山深くに存在するという、架空の「村=国家=小宇宙」に
例えられる共同体の来歴を、その土地の神主の息子が双子の妹に語る
壮大な叙事詩的小説です。

正直読み終えて、どれだけ全体の意味を把握出来たか心もとないの
ですが、理解の手掛かりになりそうな断片から論を進めると、まずこの
共同体の創始者たる「壊す人」のイメージに至ります。

彼は創建者たち共々武士社会を追放されて、海に向かうべきところ川を
遡行し、人跡いまだかつてない臭気みなぎる山奥の湿原地に到達して、
下界との境界をなす大岩塊と黒く硬い土の塊を自ら爆破して取り除く
ことによって、この共同体の開拓者となるのですが、ここから命名された
「壊す人」という存在は、正に共同体全体のイメージと同化し、彼の影響を
色濃く受けた後の世代の指導者も、それぞれの時代の日本の社会を
支配する体制に、ことごとく反逆するという点において、創造的革新に
よって生み出された、原始社会的なユートピアの価値観を守り抜く、強固な
意志と化していると受け取ることが出来ると、感じられるのです。

つまり著者は、封建的な政治体制の延長としての、我が国の明治以降の
上からの近代化の中で、様々に露呈した軋轢と矛盾に、庶民の側から唯一
対抗しうる手段として、この「村=国家=小宇宙」の共同体を提示していると、
私には思われるのです。

さて本書に登場する夥しい特異なエピソードの中で、私に一番深い印象を
残したのは、進駐軍払下げのバッテリーで一躍人気者になった少年の
物語で、彼が感電死した後、その母が銃を乱射して非業の死を遂げる話の
顛末は、哀切でしかも美しく、人生の非合理を象徴的に示す点において、
宮沢賢治の物語にも比肩する詩情を醸し出していると感じました。

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