2021年4月2日金曜日
貴志祐介著「我々は、みな孤独である」を読んで
書名に惹きつけられて、貴志祐介の小説を今回初めて読みました。
ホラー小説の名手ということで、過激な残酷描写には、少したじろぐところがありました
が、そこは練達の筆さばき、躊躇う気持ちも片方にありながら、先を知りたい衝動にぐい
ぐい引っ張られて、気が付けば読了していました。
むしろ、良識を尊重すべきであると思っている私が、このような小説に魅力を感じること
に、複雑な思いが残りました。しかし、それだけ面白い小説である、ということなので
しょう。
主人公の探偵茶畑徹朗(ちゃばたけてつろう)は、大切な顧客である大企業会長の依頼人
から、前世の自分を殺害した犯人を捜し出せ、との依頼を受けます。そしてその犯人は、
依頼人が見た前世の夢の登場人物の中にいる、というのです。
全く荒唐無稽な話ですが、茶畑には、自身の事務所の金を持ち逃げされた上に、麻薬取引
のトラブルで追われている元従業員のために、幼馴染の冷酷非道なヤクザに金を要求され
ているという止むを得ない事情があって、この依頼を引き受けざるを得ません。
以降、前世の記憶の中の犯人捜しと、前述のヤクザと同じく元従業員を追う、メキシコの
国際的麻薬組織の凶悪なメンバーたちとの息詰まる絡まりの中で、物語は進んで行きます。
更には、前世の犯人捜しという雲をつかむような探偵劇のキーパーソンとして、霊能者
賀茂禮子の存在が重要になって来ます。彼女の託宣を通して茶畑は、宇宙的真実という
目くるめく禁断の世界に入って行きます。
ミステリーのようでホラー、オカルトの要素も含む、ある種混沌とした雰囲気をまとう
小説ですが、ここで語られる真実というものを、著者が並々ならぬ情熱を持って物語の中
で構築して行くゆえに、読者はあたかも、そのような事実もあり得るかも知れないという、
感慨を覚えます。
ましてや我々人間は、科学技術の発展によって、宇宙の真理に近づきつつあるという自負
を持ちながら、実際には、自身が宇宙の摂理の中のいかなる存在であるか、また、霊とは
何か、輪廻転生は存在するのか、といった形而上の問題には、まだまだ答えを見出せない
でいます。
そのような人智の及ばぬ世界に、しばし心を誘われるという意味でも、一級の娯楽小説
であると感じました。
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