2021年4月16日金曜日

半藤一利著「昭和史 1926~1945」を読んで

先般亡くなった作家の代表作の一つで、授業形式の語り下ろしで分かりやすく記された、 「昭和史」シリーズの戦前、戦中編です。 綿密な資料の渉猟と関係者への取材によって、当時の息遣いが直に伝わってくるほどに、 しかし終始一貫した冷静な視点で、この国のかつて来た道を跡付ける力作です。 戦前、戦中の昭和史については、私たちは学校の歴史教科書でも習い、大まかな流れは すでに知っている訳ですが、それぞれの歴史的事件、事柄が起こる原因の詳細、背景、 因果関係は、歴史の授業が駆け足で進められたこともあって、理解出来ている部分が 限定的であると、感じて来ました。 その意味でもこの「昭和史 戦前、戦中編」は、私がかつて習った以降の新しい知見も 含めて、我が国が歩んだ歴史を徹底的に検証し、後に残すべき教訓も導き出そうとする、 意欲的な歴史書です。 さて周知のように、この時代の日本の歴史は、失敗の歴史でもありました。どうしてこの ような取り返しのつかない事態が、引き起こされたのか?これが本書の大きい主題です。 開戦から敗戦に至る経緯の本書の記述の中で、私がまず注目したのは、天皇の役割に ついて。敗戦以前の天皇は、日本の国家元首でしたが、彼がこの戦争でどのような役割 を果たしたかは、私が切実に興味を惹かれる部分でした。 本書の記述に沿って見て行くと、国家元首で軍の最高司令官であった天皇は、国益を 中心に考えながらも、軍事行動を出来るだけ控えるべきであると、考えていたように 思われます。 しかし、不利な軍事社会情勢が意図的に耳に入れられなかったこと、統治するとも命令 はせずの方針から、結局軍部、時勢に引きずられ、無謀な戦争への突入を許したと、 思われます。ただ敗戦受託の時にのみ、彼の決断は、日本をそれ以上の無意味な被害 から救った、と考えられます。 それに対して軍部は、その独断的でその場限りの無責任な体質から、勝ち目のない戦争 を推し進め、国の崩壊を招きました。更には、軍部を押しとどめることが出来ない政治家 、マスコミに煽られた国民の熱狂が、戦争を加速させました。 本書の結びの章で半藤は、日本人の気質に照らしながら、この戦争から得た教訓を記して います。第一に、国民的熱狂を作ってはいけない。その熱狂に流されてはいけない。 第二に、最大の危機において、日本は抽象的な観念論を好み、具体的で理性的な方法論を 検討しない。第三に、軍の参謀本部や軍令部に見られる、小集団エリート主義の弊害。 第四に、国際社会の中の位置づけを、客観的に把握していなかったこと。第五に、何かが 起こった時に、対処療法的な、すぐに成果を求める短兵急な発想を取る。 現代にも通じる、教訓に満ちた書です。

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