2020年5月4日月曜日

カミュ著「ペスト」新潮文庫を読んで

中国武漢に端を発する、新型コロナウイルス感染症の瞬く間の世界的な広がり、そして
日本でも全国的に緊急事態宣言が発動されて、今なお自粛生活を余儀なくされる中で、
先人は深刻な感染症をいかに想定し、その恐怖に直面する人々をどのように描いたか
を少しでも知りたいと思い、本書を手に取りました。

物語の舞台は、1940年代のフランス植民地アルジェリアの主要な港町オラン。この町
を突如として襲い、全面的な封鎖に至らしめた感染症は、当時圧倒的な致死率を示し
たペストと、今回のコロナ禍とは色々な部分で条件が違いますが、この本を読み終えて
まず感じたのは、感染症の猖獗がそれを目の当たりにする人間に与える不安、孤独、
絶望の普遍性です。

まず危機感をはらむ感染症の流行は、致死率の違いによる深刻度の軽重はあるに
しても、直面する人間に強く死を意識させます。しかもその元凶が目に見えず、手に
触れることが出来ないものであるだけに、人々は漠然とした不安に囚われます。更に
は、感染症は人から人に伝染して行くために、生活の色々な場面で接触する不特定の
人間が、あるいは感染者ではないかと、人間不審、疑心暗鬼を募らせて行きます。

そして遂には、感染症がその地域に蔓延すると、他地域に感染を広げないためにこの
地域は封鎖され、中に閉じ込められた人々は、恐怖と孤独と絶望、焦燥感のないまぜ
になった感覚に陥ります。

その結果として、物語のオランの住民の中には、飲食店で無闇に酒をあおって現実を
忘れようとしたり、禁じられているにも関わらず町から脱走しようとしたり、自身の感染
を確信して自暴自棄になり、見ず知らずの人を道連れにしようとして抱き付いたりする
者が現れます。これらの行為は、現在我が国で一部の人々が実行して顰蹙を買う行動
と、あまりにも酷似していて驚かされます。

他方困難な状況でも、患者の治療に専心する主要登場人物の医師、危険を顧みず民間
ボランティアとして彼を助ける篤志家の人々には、頭が下がる思いがします。この点は
現在のコロナ禍においても、私たちも大いに考慮すべき部分です。

いつかは、この感染症も終息するでしょう。その後、社会も各個人も今回の事態から多く
を学び、来るべき新たな脅威に備えることは言うまでもなく、現実のコロナ禍の渦中に
おいても、我々は他者を思いやり、自身に対しても誠実な行動をとるべきであることを、
本書は教えてくれます。

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