2020年5月25日月曜日

小熊英二著「日本社会のしくみ 雇用、教育、福祉の歴史社会学」を読んで

明治以降の日本人の働き方の特徴、変遷を通して、近代日本社会の仕組みを読み
解く、気鋭の社会学者の書です。

データと関連するそれぞれの分野の専門家の研究を精査して、論を組み立てること
によって、実証的で、説得力のある著述となっています。

私にとっては、現代の社会について薄々感じていたことを、否応なく突き付けられた
具合ですが、まずインパクトが強かったのは、日本人の働き方を大学を出て、大企業
や官庁に就職し、「正社員・終身雇用」の人生を過ごす「大企業型」、地元の学校を
出た後、農業、自営業、地方公務員など、地元で職業に就き、一生を過ごす「地元型」、
長期雇用されていないで、地域に足場がある訳でもない「残余型」に分類した場合、
「大企業型」の比率は、様々な経済変動が起こったにも関わらず、ここ数十年間不変
で、近年の顕著な変化としては、農業、自営業などの衰退によって「地元型」が減り、
その代わり「残余型」が増加しているという事実が、明らかにされていることです。

この論述は、現代日本の国内の社会問題のほとんど全ての要因を網羅していると
言っても、過言ではないのではないでしょうか。

つまり、「大企業型」に属する人々は、長期雇用が実現し、年金を始め福利厚生制度
も充実ししていて、経済的に豊かに生活することが可能な、少数派の特権的な人々
です。しかも、日本の大企業の指定校制度も含む一斉採用、終身雇用という慣習に
従えば、彼らの地位は就職時点で決まるので、大企業に職を得るために、優秀な
大学に入学することが必須になります。子供たちは、早い時点からの一生を左右する
受験競争に、巻き込まれる所以です。

他方、農業、自営業の衰退は地方を疲弊させ、様々な問題を生み出しています。地方
の人口減少、機能低下、大都市の一極集中、食料問題など、益々顕著になって来て
います。

更には、農業、自営業を離れた人々が都会に流れ、非正規雇用やパートタイム労働
の「残余型」となって、貧富の格差が拡大しています。またその部分には、シングル
マザーなど社会的立場の弱い人々も、当然含まれるのです。

本書は日本社会の現状を、働き方という観点からこのように分析していますが、社会
を覆う息苦しさが、目に見えるようです。そして、一見恵まれているように見える「大
企業型」も、過重労働というリスクを抱え、また雇用制度としても、国際競争力の
高まったグローバル社会化の中で、時代遅れの感が否めません。

現状打開の前提として、著者は透明性と流動性の確保と、社会保障制度の充実を
挙げていますが、その具体的方策は思いつけない私にとっても、現状への危機感は、
確かに実感出来る本です。

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