2020年4月16日木曜日

高階秀爾「美の季想 ふたつのひなげし」を読んで

2020年4月7日付け朝日新聞夕刊、「美の季想」では、美術評論家高階秀爾が「ふたつ
のひなげし」と題して、画家クロード・モネと歌人与謝野晶子のそれにちなむそれぞれの
作品を比較、考察した、印象的なエッセイを載せています。

まず、モネが同じく彼の作品で、センセーションを巻き起こした、「印象・日の出」と同時
に第1回グループ展に出品した「ひなげし」は、冬の陰鬱さから一変して、春の訪れと共
に陽光あふれる田園の緑の野に咲き乱れる真紅のひなげしを、彼の愛する妻子と一緒
に描いて、春の華やぎを余すところなく描き出す絵であると、語ります。

次にそれから約40年後、コクリコ(ひなげし)の咲くころのフランスに、居ても立っても
たまらず、愛する夫与謝野鉄幹を追って訪れた晶子が、彼女の作品の中でも高名な歌
-ああ皐月(さつき)仏蘭西(フランス)の野は火の色す君も雛罌粟(コクリコ)われも
雛罌粟(コクリコ)-を熱唱したことを語り、高階は二つの作品に同じ心の高揚を感じ
取った、と結んでいます。

時代を40年も隔て、男と女、フランス人と日本人と、性別、人種、文化的背景も違い、おま
けに、絵画と詩歌というように表現手段も相違していながら、二人の優れた芸術家が目
の前に広がる情景を共有することによって、同時に同じような感情の高ぶりを抱いて、
あい重なる主題の下に優れた作品を創造したということは、時代や洋の東西を問わぬ、
美の普遍性を指示してくれているようで、私はまさに両作品の創作現場に立ち会ったよう
な深い感動を覚えました。

芸術の秘密に触れるような珠玉の文章に、久々に巡り合った気がしました。

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