2016年10月7日金曜日

京都高島屋グランドホール「特別展 星野道夫の旅」を観て

写真家星野道夫が取材中に熊に襲われ、不慮の死を遂げてから20年が経過
したことをきっかけとして、企画された特別展を観て来ました。

星野は写真のみならず文章も素晴らしく印象的で、私もエッセーを数冊読み
ましたが、本展でも写真に本人の文章を合わせて展示して、観る者が彼の
世界に包まれる手助けをしてくれています。

久々に観る彼の写真は美しいことは言うまでもなく、今回は特に彼の死という
現実も超えて、もっと根源的な意味での懐かしさを強く感じました。

それは何故かと考えてみると、星野自身が彼が被写体とした極北の自然に
同化し、その一部となった上で、かの大地で悠久の時を経て営まれている
現象を写真に写し取っているからであろうと、思い至りました。

本展にもその手紙が冒頭に展示されていますが、彼がアラスカを知る契機と
して、学生時代にこの地の一地域を写した写真集に魅了され、そこで生活
したいと村長に手紙をしたため、許されて滞在したことが、彼の以降の
写真家としての人生を決定したといいます。

つまり星野は、アラスカの地と運命的な出会いをした訳ですが、本展で彼の
写真を改めて観て、彼がこの地に魅了されたのは、そこには厳しい気象条件
故に原風景としての自然が色濃く残されているからに違いないと、感じさせ
られたのです。

そのように考えて行くと、彼の写真のテーマが自然現象や動物の姿の詩的
ではあってもリアルな描写から始まって、次第にアラスカに暮らす人々や
そこに生まれた神話に題材を得る、よりヒューマンなものやスピリチュアルな
ものに深まり、広がっていったことも、当然の帰結であると感じました。

彼の写真は、アラスカの広大な自然を背景としながら、人間の本来あるべき
心の在り方をも、提示してくれているのではないでしょうか?

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