2019年12月9日月曜日

京都文化博物館「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへー線の魔術」を観て

上記の展覧会を観て来ましたが、予想以上に充実した展観であると、感じました。

まず従来の価値観では、ミュシャの作品が主にグラフィックで流通しているために、
知識のない私などは安直な作品作りをイメージしがちでした。しかし実は彼の作品
が周到に鍛錬された卓越した線やデッサン力、ち密な構成によって成り立っている
ことを、本展で初めて実証的に知ることが出来ました。つまり、アールヌーボーの
先駆者であるミュシャは、作品制作に妥協を許さずその美を洗練させ、またリトグ
ラフの版画技術も格段に進歩したことも重なって、この美術潮流は多くの人々に
支持されることになった、ということなのでしょう。

もう一つ本展で、私が初めてミュシャについて知ったことは、チェコ出身の彼が
故国の独立とスラヴ民族の自立を願う、高い志を持った愛国者で、20点の絵画
から成る『スラヴ叙事詩』を完成させるなど、その芸術活動が彼の思想と強く結び
付いていたということです。その結果後に彼は、祖国に侵攻したナチスドイツに
その点を厳しく問い詰められ、命を落とすことにもなります。この事実は、私の知る
ミュシャの一見流麗で口当たりの良い作品のイメージからは、想像も出来ないこと
でした。

後年彼の作品は、その卓越した技術に裏打ちされた独自性や、優れたデザイン
性により、更には反骨的な精神性にもよって、アールヌーボーの再評価と共に
再び脚光を浴び、特に欧米のカウンターカルチャーとしての音楽、SFシーンに
多大な影響を与えます。私も本展で、ミュシャの影響による例として展示されて
いる、懐かしいロックバンドのレコードジャケットに再会して、感慨深いものがあり
ました。

日本にはまず、明治時代にヨーロッパに留学した美術家たちによって彼の様式
がもたらされますが、特筆すべきは、現在につながるマンガやビジュアルノベル
ゲームなどに、ミュシャの影響が色濃く表れていることです。彼の芸術が今なお
生気を保ち続けていることに、改めて驚かされました。

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