2017年2月15日水曜日

福岡伸一著「芸術と科学のあいだ」を読んで

「生物と無生物のあいだ」、「動的平衡」で著名な、分子生物学者の日本経済新聞
連載コラムをまとめた本です。

まず本の体裁が極めてユニークで、コンパクトでありながら分厚く、持ち重りがし、
カバーの白地に配された手書き風のシンプルで、軽みのある黒一色の題字と
相まって、愛玩品を手にするような趣きがあります。どんなことが記されているのか、
思わず覗き込みたくなる本です。

さて著者福岡は、フェルメールの絵画の愛好家としても知られるように、科学と芸術
双方に造詣が深く、科学的な独自の視点から芸術を語り、あるいは、芸術を援用
して科学的なものの見方を分かりやすく語る文章に、定評があります。本書でもその
能力は遺憾なく発揮されて、また各コラムの冒頭に一つづつ配された絶妙のイラスト、
写真との相乗効果もあって、全体として魅力的なコラム集に仕上がっています。

それぞれのコラムは10に章分けして、タイトルを付けてまとめられていますが、その
中でも私は、「バベルの塔」と名付けられた章のコラムに、心惹かれました。この章で
扱われているのは、螺旋構造について語るコラムです。螺旋構造というものは、
生物学的にも重要な役割を担い、そしてそれ故か、人類の造形的思考においても、
私たちを強く突き動かすものであるのでしょう。

まず、生物の細胞内のDNAは、狭い空間に大量の情報を収納するために、螺旋構造
を持つと言います。その生物の根本的な部分の有する構造は、時として生物の体形や
器官の形に波及するのでしょうか。古代生物アンモナイトの殻の形、現在も普通に
生息する蝶の口吻は、螺旋状をなします。その合理的な美しさは、驚嘆に値します。

対して我々人類は、様々な螺旋形を構築し、螺旋模様を意匠して来ました。例えば
バベルの塔は、上方に伸びる螺旋構造によって、神の高みに近づこうとする人間の
傲慢さを示すとして、神に罰せられます。

他方栃木県で発見された縄文時代の遺構は、直径160メートル以上、高さ2メートル
もの円形の盛り土で、1000年にも及び絶え間なく渦巻き状に土が盛り続けられて来た
ことが分ると言います。この場合螺旋形は、終わりのない継続的な営為を示して
います。

またアイルランドの修道院で制作されたダロウの書の装飾、我が国の縄文土器に認め
られる螺旋模様は、自然界の絶え間ない循環のサイクル、エネルギーの発散を表すと
言います。

芸術と科学の関係を読み解きながら考えるなら、世界というものをもっと深く知ることが
出来るような気がして来ました。

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