2015年8月19日水曜日

漱石「それから」における、父に結婚話の断りを告げる代助

2015年8月19日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「それから」106年ぶり連載
(第九十七回)に、実家を訪れて父に結婚話への断りを述べるに際しての、
代助の並々ならぬ決意を記する、次の文章があります。

「けれども、今の彼は、不断の彼とは趣を異にしていた。再び半身を埒外に
挺でて、余人と握手するのは既に遅かった。彼は三千代に対する自己の
責任をそれほど深く重いものと信じていた。彼の信念は半ば頭の判断から
来た。半ば心の憧憬から来た。二つのものが大きな濤の如くに彼を支配
した。彼は平生の自分から生れ変ったように父の前に立った。」

今まで父に面と向かっては、はぐらかすのが精いっぱいで、はっきりと
自分の意志を述べることが出来なかった代助が、今日は父の意に背く
ことをきっぱりと言おうとしています。

上記の文章の直前には、これまでの代助なら、三千代との関係を曖昧に
して、父からの結婚話を承諾することも考えられたと記しています。しかし
今回の代助は違います。

彼には、目覚めた三千代への愛情がある。父に真っ向から背けば、今だ
経済的に依存する自分の立場が、どのような不都合に見舞われるのかは、
目に見えています。しかし彼は、決然とした態度を示す覚悟をしました。

それは頭で判断した、三千代への責任の取り方であり、心の中から
湧き起る、どうしようもない恋情のなせる技なのでしょう。

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