2017年10月6日金曜日

二宮善宏著「「快傑ハリマオ」を追いかけて」を読んで

「ハリマオ」というと、50年以上も前の私がまだ年端も行かぬ子供の頃に放映された
テレビ番組なのに、その主題歌のメロディーと歌詞を今もおぼろげながら思い浮か
べることが出来る、まるで原風景のように心に残るドラマです。この本を書店で目に
した時、表紙カバーの主人公の写真にも強く惹きつけられて、思わず手に取りました。

本書が刊行され話題になっているのも、一つはテレビ放送が開始されて早や60年
以上の年月が経過し、またITという新たな情報通信、映像媒体が急速に普及して、
テレビというもののルーツと存在意義について改めて検証しようという機運が、
広がって来ているためかも知れません。

事実昨年にはNHKで、草創期のテレビ放送と深い係わりがある、黒柳徹子を主人公
にした良質なテレビドラマが放映されて、大きな反響を呼びました。これからも初期の
テレビ放送を振り返る、様々な企画が続くのでしょう。

さて「ハリマオ」放映時に私自身がまだ幼かったので、その印象はうっすらとした輪郭
しか残っていません。しかしこの本を読み進めて行くと、まだ娯楽としての劇場映画が
全盛の時代に、テレビ草創期のテレビ制作者やスタッフが、限られた予算と時間に
縛られながら、懸命に番組を作り上げようとした熱気が伝わって来ます。

敗戦後の窮乏から高度経済成長期へと突き進む、我が国の経済状況の変遷と轍を
同じくして、テレビという新しい映像媒体を育て上げようとする、使命感に燃えた
制作会社社長の陣頭指揮の下、まだ家族的な雰囲気の残る制作現場で、スタッフが
それぞれの立場で、情熱的に番組作りに励んだ姿が見えて来ます。

また「ハリマオ」の主題歌の歌い手として、当時売れっ子の三橋美智也を起用した
ことも、私のかすかな記憶からも明らかなように、ヒットを決定づけました。制作者には
先見の明もあったのでしょう。

主演の勝木敏之については、以降早く芸能界を退いたこともあって、コスチュームの
出で立ちしか思い出せません。一つの大ヒットの後、人知れず姿を消すというスターの
淋しい末路の一つの形かも知れません。

このドラマの主人公ハリマオのモデルは実在の人物で、日本からマレーに渡り、
盗賊団の首領、日本の諜報機関の協力者として活動したと言います。戦時中
軍国美談の英雄として祭り上げられた後、戦後には再びジャワ独立運動に身を捧げた
勇者として、ドラマの中で活躍するのです。

このドラマの設定、ストーリーも、敗戦後の庶民の中にくすぶる憤懣や、やるせなさを
解消する意味において、視聴者の喝采を浴びたのでしょう。

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